現実の桃源郷をさがして

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実はここ1ヵ月半ほど、購入を前提とした不動産物件を探していた。

といっても絶対に不動産を買うぞ!と心に決めて動いていたわけではなく、今の家もとても気に入っているのだけど、春から少し生活スタイルが変化することもあり、この機会に転居も検討しますかということで不動産屋に相談したり、物件の内見に繰り出したりしていたのだ。

私の実家は転勤族で、国内外で10回ほど引越しを繰り返し、最終的に終の住処と決めた大阪の家は土地から購入した一軒家だった。北海道にある夫の実家も一軒家で、自営の飲食店まで併設している。
そのため私の中でマイホームといえば新築、ついでに戸建というイメージが強く(地方都市ではそういう人が多いんじゃないかな)死ぬまで東京で生きる覚悟のない私たちは、少なくとも東京にいる間はずっと賃貸で暮らすんだろうな、と勝手に思っていた。

それが不動産についてあれこれ調べてみると、そもそも売ることを前提として物件を買う投資用という概念やら、新築と中古それぞれにメリット・デメリットがあること、資産運用の面から見た立地条件など、色々と学びがあってとても面白かった。結果的に今回のタイミングでは購入を見送り、しばらくは今の家で住み続けることに決めたのだけど、いずれは家を買おうと心を決められたし、色々と知識を得たりお金のことを見直したりできたのはとても有意義だったなと思う。

不動産のことで頭がいっぱいだった時期に、今こそベストなタイミングなのでは、と思い「プリンセスメゾン」を読んだ。

プリンセスメゾン 1 (ビッグコミックス)

プリンセスメゾン 1 (ビッグコミックス)

 

大阪にいた頃に一度手に取ったものの、不動産にも東京の地理にも疎い私は1話で読むのを止めてしまっていたのだけど、もっともっと早く読めばよかった。いやむしろ、これを読むきっかけになっただけでも、不動産巡りをしてよかった。というくらい、いい漫画だった。

「プリンセスメゾン」では、高卒で上京し居酒屋で真面目に働く主人公・沼越幸(沼ちゃん)が「理想の家」を探し休日のたびに不動産屋巡りをしている。沼ちゃんと彼女を応援する不動産屋の人たちの話が主軸ではあるのだけど、作中には多くの「モチイエ(持ち家)女子」が登場し、様々な立場や事情から家を売ったり買ったりする様子が描かれている。
作中では不動産屋さんが監修しているのだろうなとわかるくらい、家選びのポイントや手続きの流れなども出てきて勉強になるのだけど、それ以上に、私たち若い世代が、特に独身女性や収入が高くない人が家を買うことに対して無意識のうちに設置している心理的ハードルの高さに気付かされる。そして周りの心配をものともせず、信念を持って購入を目標に突き進んでいく沼ちゃんの生き様に勇気づけられる。

沼ちゃんがついにマンション購入を決めた際のやり取りがとても好き。f:id:oukakreuz:20180316151436j:imagef:id:oukakreuz:20180316151525j:image20代前半にしてこの腹の据わり方よ…。

沼ちゃんが本当に魅力的なのである。少ない収入から必死に貯金をして、休みの度にたくさんの物件を見学して自分の将来の暮らしを想像して、夢のお家を手に入れて、ささやかな幸せを積み上げる生活を目一杯楽しんでいる沼ちゃんを見ていると、自分も自分だけの理想の部屋を探したくなってくる。一人暮らしを始めた時にも「自分だけのお城だ!」という楽しさはあったけど、購入となるともう「桃源郷」になるんだな。

不動産という資産を持つことの意味や、そもそも自分の住処を探すこととは人生を考えることだ、というテーマが説教くさくなく語られていて、ああもう良いもの読んだなあ!という気持ちでいっぱい。家に興味がある人もない人も読んでほしい。

家を探すことは人生を考えること、というのはとても同感で、私も沼ちゃんと比べると本当に短い期間だけど家探しをしてみて、それまで知らなかった私たちを知ることができた。
家に求める条件はもちろん、この10年をどんな街でどういう暮らしがしたいのか、話し合っていくうちにビジョンがなんとなく掴めてきた。ローンの仮審査の際には夫の年収を初めて知った。子どもを持つことは考えていないつもりだったけど、育児に関する自治体の補助や待機児童率なんかを自然と調べて検討の条件に入れている自分がいて、ああ私もいつかは子どもを産む気があるんだな、と気付いた。

そういうことって結婚の時に夫婦で擦り合わせておくべき重要な価値観なのでは、という気もするのだけど、交際を始めて日も浅いうちに「どうせ一生一緒にいるんだから早めに結婚した方がいい。(夫談)」という勢いで結婚し、夫の仕事の都合で住む場所もさっさと決めてしまったので、あまりそういった現実的なことを話し合ったことがなかった。
お互い環境に順応するタイプで、相手がいつ転職したりUターンしたいと言い出すかわからないなあ、でもまあそうなった時は一緒に考えようか、というノリで生きていたので、「家」を考えるにあたって「○歳くらいまではこの仕事をして、将来的にはこういうことがしたい。もし子どもができたらこういう環境で育てたいと思っている(まあ完全にその通りにはならなくてもいいけど)」という話を夫婦で真面目にできたのは、大きな収穫だったと思う。

あと単純に物件情報を見たり、内見したり、知らない駅で降りて街を歩いたりするのはとても楽しかった。住宅地の中にある公園に行ったり、食べログで調べた近隣の店に行くのもわくわくした。同じ沿線でもやはり街によってカラーのようなものが違っていて、定期的に住まいを変えたい人の気持ちがわかった気がする。もともと間取りを見たりするのは好きだったけど、リノベ物件の楽しさにも目覚めた。資産価値云々は置いておいて、リノベいいよリノベ。夢が広がる…。

でも色々な住まいの可能性を検討して、プリンセスメゾンを読んで、一番強く思ったのは「今の暮らしを大事にしよう」ということだ。
広い部屋を求める前に物の多さや家具の配置を見直すべきだし、今の家の良さはもっと活かすべきだし。けして安くはない家賃を払い続けることを選んだのだから、この家でもっと快適に暮らせるように努力しよう、と決めた。部屋で過ごす時間も長くして、家族にとって最高の部屋にできるようにいっぱい考えようと思う。桃源郷は自分で作るものだから。

 

(追記)プリンセス・メゾン、ドラマの伊達さん役は高橋一生らしいですね…!眼鏡スーツで敬語で勤勉で船に乗れない高橋一生…!ひー!見るしかない。