帝劇エリザベート2019

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帝劇エリザベートを観た。初日付近に幸運にも2回観られたんだけど、やっぱり自分の中で「エリザベート」はあまりにも特別で好きすぎて、感想をまとめるのが難しくて放置してしまっていた。しかしこのまま何も書かないと数年後にまた「この演出って新しいやつだっけ、前からあったっけ…」と混乱しまくることになるのでまとまらないけど自分用メモ。

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エリザベートは観るとエリザベート好きとミュージカル好きしか考えられなくなっちゃうんだけど、好きすぎて&自分の中の最高の解釈が固まりすぎていて、深く考えれば考えるほど東宝やイケコ演出に対するいろんなモヤモヤも出てきてしまって本当に意見を口にするのが難しいのだよな。

演出について

新演出は映像などでも見ていたはずなんだけど、いろんなところで「え、これ前からこうだったっけ?」と思うところが多々。イケコも初日挨拶で言ってたけど、どこからが今回の新演出なのかわからない!合間にウィーン版や韓国版も見ているので余計に…。愛と死の輪舞ってまだソロだったっけ?とか、ゾフィーのシーツ剥がすのは前からだったっけとか、あと「死は逃げ場ではない」って前から無かったっけ?!とか…やっぱり観劇のたびにこういうのを書き留めておかないと忘れちゃうものだな。前回のキャスト一新&若返りと共に演出も変わっているので、どの要素が新鮮さを作っているのか判断が難しい。
今回は目新しさを出すためか?特に歌唱においてこれまでにないアレンジをしているなあと思った。最後のダンスの「お前は俺と踊るさだめ」とかハンガリー戴冠式の「今日ここより始めましょう」とか20年親しんできたメロディと違うので違和感があるけどコンサートverみたいで面白い。
セットは特にハプスブルク関係が好み。高さがある&隙間の空いたセットを女官たちが早足で渡って行くのはひやっとするけど(笑)全体的に斜めに傾いたセットや双頭の鷲を入れまくりのセットは世界の黄昏っぽくて良いです。エリザベートの紋章の描かれた壁?はそのまま板っぽくてよくわからなかったけど…。

あとこれまで象徴的になっていた台詞や演出が消えたことで解釈を大きく変えようとしているのか?と勘ぐる部分もあり(「私だけに」前の自殺未遂全般が消えたのはシシィの自立だけにスポットを当てられて良いと思うものの、あの時の短剣がその後いろんな場面で象徴的に出てきていたので無くしてしまうのはびっくりした。あと「死は逃げ場ではない」ね。)全体的にイケコが何を考えているのかわからない…いや前からわかってたわけではないけど…。頑なに守っていたシシィの元男役縛り・ルキーニのシングルキャスト縛りも消えたしイケコが譲歩したのかそもそもの解釈が変わったのか…。

キャストは運よく2回の割に結構違うパターンで見られました。組み合わせはこれ。
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各キャストについてつらつら。

エリザベート:愛希れいか

2回ともちゃぴちゃんでした。リアル20代が演じるシシィの若々しさよ…!Annemiekeちゃんのシシィ見たときのようなみずみずしい感動。少女時代とか可愛すぎる。「私だけに」の一曲の前後でがらっと印象が変わる。ちゃぴちゃんが強いイメージなのもありこの曲が自立ソングだということを強く思い出す。
2幕の哀愁とか、身近な人を亡くしていく抑えた悲しさみたいなものはやはりお花様や年配のシシィ役者さんの方が達者だなと思いつつ、ちゃぴちゃんがすごく良かったのは精神病院とコルフ島。この人は誰のことも愛していない、本当にただ自由を求めた結果、強くなるしかなかった人なんだなと感じた。私が踊るときの勝ち誇り方も納得。(あそこ、今まで見てきたシシィたちはもっと不安がありつつそれを見ないふりしようと強がっている感じだけどちゃぴちゃんは本当に完全勝利の顔してる)
宝塚のエリザベートって「トートとフランツに取り合いされるヒロイン」ポジションなのだけど、ちゃぴちゃんのシシィはただただ孤独で見ていて苦しかった…。

トート:井上芳雄/古川雄大

トート2人見られて良かったなあ。2人とも方向性が全然違って面白かったです。ダブルキャストの醍醐味だな。
よしおトートは帝王、古川トートは概念って感じ。個人的には歌はよしお、役としては古川くんが好みだったかも。日本の帝王トートは「元々そこに存在していたものがシシィに出会って恋に落ちる」話が多いと感じているけど、ゆんトートは「トート=エリザベートによって生み出された影」に見える、久しぶりのトートだった。自分の中に生まれる感情が何なのかまだよくわかっていない感じ。その分ずっとふわふわしていて芝居に締まりがない(すみません)ので、きっちりルキーニが手綱を握らないといけなさそう。若い。井上トートは帝王トートなので「この俺をこんなに振り回すとは」というテンションで迫ってるんだけど、最後のダンスからずっとそのスタンスなのでちょっと飽きるのであった、あとちゃぴに相手にされてないので最後の勝利感が薄い…。しかし歌は良いです。井上トート×成河ルキーニ×まりおフランツの組み合わせだったので耳が幸せだった。

ルキーニ:成河/山崎育三郎

最も期待していて、やはり見た後も素晴らしいと思ったのは成河さんのルキーニ。上手い方の揃った回で観ていたのに彼だけさらに頭一つ抜けていたというか、役者としての圧倒的な力を感じた…。日本のルキーニでここまでルキーニという難しい役を理解し独自の形に表現していた方はいなかったのでは。個人的には韓国のウンテルキーニがマイベストのルキーニなんだけど、それに負けないくらい好きでした。
エリザベートという作品の鍵はルキーニが握っていて、ルキーニ次第で舞台の見え方が変わる、ということを思い出させてくれた。ルキーニはただの狂言回しではなくて、この死者たちによる劇中劇を唯一メタ視線で眺め解説し動かしている役。恋愛を軸にした宝塚版ではトートとフランツによるシシィの奪い合い、という部分がフォーカスされがちですが、エリザベートは本来トートとルキーニの力関係によって面白くなる芝居だと私は思ってます。
ということで成河ルキーニは舞台全てを掌握しつつ一歩引いた目で笑い、宮廷社会を憎みつつ革命に狂う市民のことは馬鹿にし、シシィに執着しているようで誰でも良かったと嘯き、トートの従順な僕であるように見えて抜け目がない、矛盾をたくさん抱えた狂人に仕上がっていた。成河さんのミルクからの宮廷の流れ、鳥肌が立つほど素晴らしかった。

成河さんを観た後に育三郎のルキーニを見ると、あまりに綺麗に上手なルキーニで、全く問題はないのだけどちょっと物足りなく感じてしまう。これは完全にダブルキャストの相手が悪い…と思ってしまった。本当にお歌は上手いし、うまく回しているんだけど。狂人というより皮肉な人に見えてしまい。いや、先に育三郎を観ていたら普通に何も不満はなかったと思うのだけど。あと井上トートとの組み合わせでも見てみたいかも。

フランツ:田代万里生/平方元基

この2人も全然違うフランツで面白かった。初登場時、まりおは皇帝に仕上がっていて、平方くんはまだ夢を諦めきれていない青年という感じ。
まりおはすでに皇帝なので、シシィが「自由に生きていくのよ」と言った瞬間に「あ、だめだこの子勘違いしてる」という顔をしていて、最初から諌めるモード。これは忠告を聞かずに押し切ったシシィが悪いのでは…と思うくらい一貫して皇帝としての責務を優先していて、自分を押し通してシシィを手に入れている感じもしない。ちゃんと事前契約内容を伝えた上で結婚して、そのぶんしっかり守り愛情を注ごうとしていたので別に悪くないよね…。
平方フランツはもっとふわふわしているというか、完全に恋に落ちてどうしてもシシィと結婚したかったんだなーという感じ。シシィの「自由」という言葉にも、「この子とならそんな人生も可能かもしれない」と夢を諦めきれない感じがする。だからこそシシィの「私を見殺しにするのね」の絶望も深く(相対的に)見えてくる。

「悪夢」で2人とも本気でシシィを助けようとして踠いていて、苦しくなる。その中でもまりおは「私の妻だ」「全て与えてきた」に皇帝としてのプライドが見え、平方フランツは恋だけが残っているように見える。ダブルキャストの面白さだなあと思った。

あとはルドルフのジャニーズの人がダンスキレッキレで綺麗!儚げで合うなあとか、マデレーネのみれいちゃんが美しくて美しくて他の場面でもつい目に入ってしまうとか、友人の贔屓のしーちゃんがヘレネでやっぱり目で追ってしまうとか(95期祭りでしたね)ヘレネ本当に優しくて可愛いお姉さんだったな…。

とにかくエリザベートはお祭りだなと思った。解釈を考え始めると止まらないし文句も出てきてしまうけどあの曲と衣装と世界にどっぷり2時間浸かることが幸せ。これからもいろんなエリザベートを観たい。