シェイプ・オブ・ウォーター/君の名前で僕を呼んで/ファントム・スレッド

最近見た映画3本の感想です。いずれも今年のアカデミー賞関連で話題になった恋愛映画。ネタバレ含。

不気味でロマンチックなおとぎ話/シェイプ・オブ・ウォーターf:id:oukakreuz:20180605154351j:plain

おどろおどろしい悲恋映画を想像していたら、ものすごく美しいラブストーリーだった。なんて美しい映像。なんて綺麗なハッピーエンド。
全体的に水をモチーフにしているのもあって、潜水艦のような住居の内部や深い青の制服、グリーンのゼリーなど、すべての色彩が好みすぎた…。

冒頭に口のきけないイライザがショーウィンドウの靴を眺めるシーンがあり、靴を磨くルーティンがあり、「靴(=脚)」を強調して演出していて、なるほど人魚姫なんだな、じゃあきっとアンハッピーエンドでイライザは泡になってしまうのかなーなんて思っていたのだけど。すごく夢のあるラストで本当に良かった。二人で抱き合いながら脱げた靴がゆっくり沈んでいく描写も印象的。

よく考えるとポジション的に最も原作の人魚姫に近いのはホフストラー博士ではないのかな。ずっと見つめていた対象に気付けば恋敵が近付いていて、手に入れられないなら毒殺するように言われるが愛ゆえにできず、泡となって死んでしまう。「あの複雑で美しい生き物を殺したくない」という台詞、科学者としての精神が最後まで美しかった。掃除婦たちに本名を告げるのもぐっとくる。

イライザの隣人ジャイルズ、同僚ゼルダもそれぞれ良いキャラクターだし(確かにみんな同性愛者、黒人とマイノリティなのだけど、おとぎ話の脇役としてはみ出さない程度の重さで描かれているのもすごくいい)モラハラセクハラフルコースの上司ストリックランドは言動が徹底的に悪役過ぎて、あそこまでいくとおとぎ話のようでリアリティがなくあまり怖くない。
彼の人物形成に過剰なまでにアメリカン・ドリームを盛り込んでいたり、監督なりの皮肉があちこちに含まれているのはわかるけど、私はただただ美しい映像と恋物語にうっとりした。映画館や浴室のラブシーン、モノクロ映画のミュージカルシーン、すべてが最高にロマンチックだった。イライザが目的を失った人魚姫で、王子の「彼」が迎えに来た、という話なのかなあ。色々な解釈ができてそれも楽しい。

 

ひと夏の、永遠の思い出/君の名前で僕を呼んでf:id:oukakreuz:20180605155712j:plain

ずっと楽しみにしていて、珍しく公開翌日の朝一に見に行った。 CMBYNの感想はとにかく「美しい」と「イタリア行きたい」に尽きる。本当にどの画面を切り取っても絵になる美しさ。ティモシー・シャラメはじめ役者はもちろん、衣装も音楽も、イタリアの街並も、エリオの一家の暮らす屋敷の内装も、食べ物も、すべてが美しい。いやあ本当に各場面を写真集にしてほしい。各国のポスターもどれも素敵だった。

ストーリー自体はそこまで起伏がなく、エリオとオリヴァーのいわゆる「ひと夏の恋」がほろ苦く描かれているのだけど、この映画は本質的には恋愛より思春期の成長や自意識なんかを描いているんだろうなあ、となんとなく思う。お互いの名前を交換して呼び合う場面と、ラストの父親のセリフが印象的。あんなに理解のある良い両親、現代でもなかなかいない。
あとマルチリンガル描写が好物なので、母親がフランス語の原書をドイツ語に翻訳したものを黙読しながらイタリア語に翻訳して音読し、その内容をオリヴァーはフランス語で読んでる、というくだりにツボをつかれました。。

あの時代、ユダヤ人とはいえ、ああいう真にリベラルで視野が広い両親にのびのびと育てられたエリオの未来はきっとどういう形であれ良い方に向かうのだろうなと思える(父親の言う通り、経験や気持ちを否定しなかった、という事実が彼を救うのだろうと思う)けど、オリヴァーはどうなのだろう。彼らはこれからどのような人生を送るんだろうなあ。ラストの涙があまりにも美しかった。(しかしあの彼女っぽいポジジョンだった女子たちはやっぱり気の毒だ…と思ってしまいますね、あれはラテンでは普通のことなのだろうか…。)

 

針と糸に込める狂気/ファントム・スレッドf:id:oukakreuz:20180605174604j:plain

正直見ながらしばらくは実在のオートクチュールデザイナーをモデルにした映画なのかな?と思っていた。それくらいリアルだった。リアリティにこだわるアンダーソン監督×本作で引退を表明しているダニエル・デル・ルイス氏、なんと実際に仕立て屋に弟子入りして1年間も修行してたらしいですね…こだわり半端ない…。しかし元の演技力も相まって本当に実在するでしょこの人、こういう才能とセンスだけ突き抜けてて他のことはできなくてそのくせ周りにうるさい神経質な天才肌デザイナー、絶対いるでしょ!!という感じだった。

田舎のウェイトレス・アルマが世界的なデザイナー・レイノルズに見初められ彼のミューズとしてオートクチュールの世界に入る、ってまるでシンデレラストーリーみたいなあらすじなんだけど蓋を開けてみたら完全にホラー。

レイノルズはただのマザコンモラハラ男だし。(アルマをミューズにした理由、明言されてないけどおそらくお母さんと体型が似てたってことだよね?お母さんがインスピレーションの源だって言っていたし)彼に見出され、みるみる洗練されて美しくなり、でも女性としては相手にされず…と振り回されまくったアルマの反撃方法は普通に犯罪。文字通り命を賭けた共依存関係なんだけど、まあ、本人たちが幸せならそれでいいのかな…。
毒キノコを調理する様子が本当に美味しそうで、これ絶対食べたらいけないやつだけど食べたい!となる映像美だった。

肝心の衣装はもちろんどれも美しく、それこそどこぞのメゾンのドキュメンタリー映画だと言われても信じそうなくらいだったけど、それよりホラー要素の方が強くて怖い。この人たち、無いわー…と引きつつ見てた。世界観とキャラクターのリアルな作り込みは本当に凄かったけど、これを「究極の愛」と宣伝するのはちょっとどうなのかなーというのが個人的な感想。

 

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