死者は語らない ストーリー・オブ・マイ・ライフ

SOML日本初演、観てきました。田代トーマス、平方アルヴィン回。

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韓国版は未見で、ストーリーも前情報を一切入れずに行ってきたので、まだ理解しきれていない部分も多々…。特に全編通してモチーフとなっていた映画『素晴らしき哉、人生!』はどんな話なのか予習しておけば良かったな。

正直いうと、セット変更のない出ずっぱりの二人芝居という構成的にダディもしくはスリルミーのような作品を想像していたので、割とずっと二人の対話と過去のエピソードが続き、肝心の謎が解けないことに疲れて冗長に感じてしまう部分もあった。ただ最後まで観ると、繰り返された台詞や場面が二人にとってどんなに重要なものだったのか、どこがターニングポイント(だとトーマスが感じていたか)がわかる。個人的な物語の好みとしては自殺なのかそうでないのか、アルヴィンが何を考えていたのか、はっきりさせてくれた方がスッキリするんだけど、そこを究明することに意味はないよ、とある意味突き放しているのがこの作品の特徴であり最大の魅力なんだろう。

トーマスはアルヴィンは自殺だと思い込んでいて、どこで間違えなければ友人を救えたのか、自分が見落としたヒントを探そうとする。観客も自然とそういう視点で、何かを拾えないか、という目で芝居を追ってしまうけど、本当は、重要なのはそんなことじゃない。人の人生は死に方で決まるものではない。トーマスが見てきたアルヴィンの人生、その中のありふれたエピソードひとつひとつにこそ彼が生きた証がある。そしてトーマスは小説家としてそれを物語として生かし続けることができる。トムソーヤの読書感想文の曲で「時代が変わっても紙に書かれた物語は生き続けるし、時を超えて人に影響を与えられる」という歌詞があったけど、まさしくそれが物語=人生なんだな、と思う。

街に出て成功したトーマスがアルヴィンの大切さに真の意味で気付いた時、彼はもういない。トーマスがスランプに陥ったのは、「自分はアルヴィンからのインスピレーションが無いと書けないのでは無いか」と思ったことがきっかけだろうけど、きっとアルヴィンの弔辞を終えることによってそれを乗り越えるんだろう。なんだかそれはアルヴィンの呪いのようにも感じる。(私は、アルヴィンは自分だけのための言葉=弔辞を書いて欲しくて、飛び込んだのでは無いかと思う。平方アルヴィンはあまりに天使だったので、そんな腹黒いことは考えもしなさそうですが。)(そしてアルヴィンの死にトーマスが関係しているはず、という目で見てしまうこと自体がトムの願望を反映しているんだろうな。実際にはアルヴィンにも他の人間関係や生活があったわけで、全然関係ないことが原因で橋から落ちたのかもしれない。)

一方で、人の人生とはそれを語る他者によってのみ形作られるものなのだ、ということも感じた。誰かが物語にしないと、その人の存在は後世の誰からも見つからない。この舞台に登場するアルヴィンは全てトーマスの記憶や想像の存在であって、アルヴィンの生きた言葉を聞くことはできない。死者は語らない。「君が見たものは全て脳が覚えているけど、見ていないものは思い出せない」。だから、この物語は完全にトーマスのためだけの救済なのではないか、という違和感もある。彼は記憶との対話を通じて自身の罪悪感やわだかまりを乗り越え、一歩進むことができた。でもアルヴィンは?彼が本当は何を考えていたのか、納得して飛び立ったのか、トーマスの弔辞に喜んでくれるのか…何もわからない。

でもそれが死ぬということで、大切な人を見送るということなんだろう。身近な人が亡くなった時、何の後悔も抱かない人はいないと思う。あの時あんなことを言わなければよかった、もっと頻繁に会えばよかった、優しくしてあげたらよかった、あれが最後だとわかっていたらもっとこうしたのに…。何度過去をやり直せたとしても、きっと後悔が0になることはない。残された人は何度も過去と対話して、長い時間をかけて自分なりの方法で乗り越えて、失くした人が自分にとってどんなに大切な存在だったのかを折に触れて思い出しながら生きるしかない。残酷だけどそれが現実だから、今そばにいる人が生きている間に、大切にしようね。愛を伝えようね。シンプルにそういう気持ちになれた。

そして今回の特徴として、Wキャストならぬ交代式の相互出演というのがなかなか珍しい。これは他の国でもやっているのかな…?個人的には自分が見たキャストが役者さんにぴったり!と思ったけど、逆パターンを見た方々もぴったりだったと仰っているのでどちらも見てみたかったな。ただでさえ出ずっぱりの二人芝居なのに逆の役作りもされているお二人は本当に大変だっただろうな…。なんとなくだけど、アルヴィンもトーマスも役者さんによって全然違う解釈ができそうだと思うので(アルヴィンはもっと裏があるようにも演じられるだろうし、トーマスはもっと自尊心の無い役にもできると思う)色々な方が演じているのを見てみたいな。曲も耳に残るメロディが美しく、総じて優しく穏やかな気持ちになれる作品でした。個人的にハマる、のめり込む、という感じではなかったけど、良い観劇だった。