雪組の「愛の不時着」を観てきたので感想です。この秋ドラマ版に再び大ハマりしていた私、後半は5周くらいして名場面のセリフは全て刷り込まれた状態で観劇してきました。愛が重い。
傑作ドラマのミュージカル化
本作は世界的に大ヒットした原作ドラマを2022年に韓国でミュージカル化したものを宝塚が輸入したかたち。なので脚本演出については宝塚版というよりミュージカル化全体に対しての感想となってしまうのですが…。観劇前に想像していた通り「あの超大作全16話を2時間半にまとめるのはさすがに無理があるw」に尽きた。どうやっても無理。せめて北朝鮮編・南朝鮮編で2作にすべき。
で、難しいのは承知としても長編の映像や小説を舞台化する際は上手く抜粋してまとまっている作品もあるとは思うんですけど、愛の不時着は正直、その抜粋のレベルがかなり低かった。おいおい…と思った。詳細は後で書きますが、主な理由としては「熱烈なファンの多いドラマであるが故に、話の筋としては削っていいのに削れないものが多すぎた」のかな…と感じました。「愛の不時着ドラマで好きな場面投票」を行ったらベスト10に入りそうな名場面はてんこもりに入っているのに、場面と場面を繋ぐ文脈が途切れ途切れだったり、キャラクターの関係性が見えないまま進んでしまうので知らない作品の総集編を見せられている気分になる。ドラマを見ていた私ですらそう感じたので、初見の人は訳がわからないところも多々あるのでは…?(まあヅカオタは原作付作品を観ても「なんかよくわからないけどきっと原作では設定があるんだろうな」と受け流すことに慣れているのだが…w)
ということで個人的には残念だったな〜もっとここをこうしたらいいのにな〜と思うところが多かったんですけど、良かったところもあるし、何より生徒は頑張ってた!!!舞台観て素直にとても良かった!と感じた方は不快かもしれないので読むの注意してくださいね。でも一言だけ言わせてほしい今回の舞台見てドラマ未見の方はみんな1ヶ月だけでいいからネトフリ加入してドラマを見てくれーーー!!!まじで信じられないほど面白いからーーーー!!!!!
良かったところ
・冒頭はスイスの場面で始まるのだけど、ジョンヒョクのピアノを聴いたセリが感謝のメモを渡しているという設定変更は後に繋がりやすくて良い。(のわりにほぼ生かされていなくて残念だったが…)同様にジョンヒョクの出自を軍の中で最初から隠していないのも良かった。そのくだりやってる時間ないもんね。
・OSTから歌ってくれたところ!!!!前知識なくてギャーーー!!となった。ドラマファンは全員なったことでしょう。ジョンヒョクのソロでBut it's Destiny、そしてSunsetはダンとク・スンジュンのデュエット(!!!)ありがとう!ありがとう!!But it's Destinyは歌うの早すぎてちょっと何のタイミングなんそれ?と思ったけど!セリと出会ってから歌った方が良くない!?
・コメディシーン満載でどんどん笑わせる芝居になっていたところ。ドラマもかなりコメディだけど、舞台で要点だけまとめるとシリアスにも振れたと思うので…。生徒さんもみんな間が面白い芝居をしていて頑張ってた。
・セリがジョンヒョクの評価を上げるために村の主婦たちに取り入る曲「内助の女王」は舞台化ならではの場面でとても良かった。1曲でユン・セリの魅力が、村全体を巻き込んで味方にしたんだよ〜が伝わる。2幕では同じ曲がリプライズで「ファッションの女王」となっていて、セリのソウルでの影響力を見せるのも良い。ドラマではそこまでソウル中が注目するファッションリーダー!って感じではないけど、舞台でこの南北のコントラストを出していたのが良かった。ミュージカル化の醍醐味ってこういうことよ!もっと他にもこういう場面を見たかった。
・夢白ちゃんのユン・セリはドラマよりかなりハイテンション、お騒がせな「おもしれー女」として成立していて、みんなが巻き込まれちゃうのもジョンヒョクが好きになっちゃうのも納得感ある。ちょっと声がキンキンしてうるさく感じてしまったけどたぶんブリリアの音響のせい。
・1幕はセリが韓国に帰るところで終わる。国境線を超えてキスをする名場面で幕で、うんうん、区切るならここだよね〜と思ったのだけど、韓国版ミュージカルの感想を読んでいるとどうやらオリジナルはここではないらしい。チョルガンの手下に撃たれてジョンヒョクが倒れるところで1幕が終わり、2幕は韓国に帰国したセリの回想で始まるらしい。ええええ!?それはさすがに宝塚版の変更がグッジョブだと思う。
・スンジュン&ダンは短い出番の間に2人の出会い〜惹かれ〜別れまでが描けていたと思う。ちょっと最後バタバタしすぎではあったが…。ていうかねク・スンジュンって改めて考えると宝塚の2番手男役にぴったりすぎる役なんですよ。お金持ちの詐欺師、チャラいプレイボーイに見えて影があり、芯のあるお嬢様に振り回されてメロメロで最終的に愛に命をかける…みんなが見たい2番手男役なのよ!!せおっちのスンジュンは他の登場人物と比べて話し方とか身振りをそこまでドラマの役者さんに寄せていないなと感じて、でもそこがオリジナリティあってすごく良かった。ちゃんとスンジュンの役を掘り下げて解釈しているから自分の役にされていたんだろうな。今回のMVPはせおっちです。
・尺が短いわりに北朝鮮の村のオンニたちとの交流は丁寧に描かれていて、北を去るセリからの手紙があったり、みんなをコスメのモデルにしたくだりも残っていて驚いた。(あそこ大好き!)セリと村の人たちの絆がすんなり入ってきたのはやはり「内助の女王」の一曲があったからだと思う。
・お衣装が想像していた以上にドラマ準拠だった。色やデザインをかなり寄せているので視覚的に「あの名シーンだな〜」と没頭できる。夢白セリの麗しいドレススーツやあーさジョンヒョクの黒タートルにコートの南朝鮮スタイルが見られてよい。
・生徒さんたちみんな(前述のスンジュン以外)びっくりするほどドラマの役者さんにヘアメイクを寄せていて努力に泣ける。今回特にそんなに似せられる!?てくらい似せてる方が多くて。ヨンエさん、チス、ジョンヒョクパパ、ダンママとか遠目に見たらドラマと同じじゃないかと思うくらい似ていた。すごい。まあこれは努力がすごいと思うという話であって、個人的にはせおっちのように役の要素を持った別人として演じてくれるのが好みではあるのですが。
・宝塚ってフィナーレがあるのが素晴らしいよね。本編でどんな目に遭ってもフィナーレで幸せそうに踊っているのを見たら満足するもんね。クスンジュンとダンのデュエット見るとドラマの2人すら成仏できた気がします。
残念だったところ
最初にも書きましたが、尺が足りないのは大前提として…。
・そもそもジョンヒョクとセリのラブストーリーとして、2人が惹かれ合うまでの描写が足りない。お騒がせでチャーミングな「おもしれー女」セリをジョンヒョクが好きになるのは、わかる。でも命を懸けて守る!とまでなるのは急すぎるというか、1幕と2幕の温度差が激しい。韓国版にはあったらしいセリを守って撃たれる場面がカットされているのもあって、北朝鮮にいる間にお互いが惹かれているけど冷静に離れようとして、でも助け合って…みたいな経過が何も!わからなくて!尺ないのはわかるけどやはり撃たれるのと輸血はほしい。船の場面はあったけどあれはどちらかというとラブシーンだし、本気でセリを帰国させようと奔走しているシーンがないからラストの国家情報院でのやりとりに説得力が欠ける。
・ジョンヒョクとジョンヒョクパパもまともに会話しないし、「南の女に惚れて勢いよく飛び出していっちゃった色ボケ息子の尻拭いをするパパ」って感じに見えたよ…。違うんだよジョンヒョクは恋愛だけで南に行けるような人じゃないの!!国も家族も愛している真面目な人だから大変なのよ!!そうじゃなかったらさっさと脱北してほしいんだよこっちは!!(視聴者の声)
・そもそもジョンヒョクの人物描写が〜浅い〜。リ・ジョンヒョクが敬語キャラなの本当に解釈違いです。軍服で生真面目な軍人あーさが敬語なのはピッタリなんですけどそういうのは別の作品でいいんです。フリューゲルとかさ。
(共産主義国の堅物軍人が資本主義国からやってきたおもしれー女に振り回されていく話、既視感あるなと思ったらフリューゲルだったよ)
チョルガンの悪事を追っているのはさらっと話されるんですけど、ジョンヒョクにとっての兄の死がどういうものだったかの説明がない。というかそもそもピアニストを目指していたことすら出てこない。(出てこなかったよね?)なぜスイスでピアノを弾いていたのかがノーフォロー。ジョンヒョクはピアニストを目指していたけど兄の死で帰国して軍人になって、それ以来大事なものを失うことを恐れて距離を置いていたけどセリが現れて生き方が変わって…ていう、そこをさ、1曲なんか歌にしたら良かったんじゃないですかミュージカルなんだから。あとせめて第五中隊メンバーに「中隊長は元々ピアニストを目指してスイスに留学してたんですよね〜」とさらっとセリフで説明させるとかさ…。ジョンヒョクの苦悩が見えないから、ただの口下手で親切な軍人に見える。
・ジョンヒョクがなぜスイスにいたかも謎だが、セリがなぜ安楽死をしようとしていたかも謎。家族仲が良くないのはわかるが、あの面白女子が自殺したがるようなキャラに見えない。やはりこのあたり説明不足である。
・で、ジョンヒョクの苦悩が全然わからないから、ラストがとても都合良く感じるのだ。惚れた女のために周りに迷惑かけて南に飛んで、親の力で無事に戻って、なんやかんやラストはスイスでセリと幸せに暮らしました、に見える。スンジュンはあんな死に方したのに落差ありすぎない!?!
・そもそもラストの38度線で別れた後に暗転影ナレで即スイスはひどすぎる。泣くシーンのはずなのに笑ってしまった。ドラマ最終話は2人が別れてからがめちゃくちゃ良いのにさあ!!!そして愛の不時着の落とし所って安易なハッピーエンドじゃなくて、「ジョンヒョクとセリは来年会えるか保証はないし連絡は取れないけどお互いを想いながら離れて生きていて、1年に2週間だけスイスで会える」っていうのが一番切なくて良いところなんじゃん!?その余韻がゼロなのよ!!!
・ラスト全般が納得いかないけどダンちゃんもさ…。一言くらいセリフあげたら良くない?スンジュンの死後なにもフォローがなく振り切れたように歩いてるの意味不明じゃない?せっかくダンママいるんだから「ダン、いい加減にあなた結婚しないの?」「今はシングルが流行りなのよ」みたいなやりとりをさ…入れたらいいじゃん…。
・耳野郎、この舞台においては不要では。兄の死の真相を伝える役なのかと思いきやチョルガンの裁判終わってから出てくるし。いやドラマファンからすると南に行くメンバーに居てほしい気持ちにはなるけど、セリの家族だって次兄以外全員カットだったわけだし耳野郎もカットした方がわかりやすかったと思う。
・とてもシンプルなツッコミなんだけど、2幕でセリが撃たれるところ…国家情報院いるのになんで病院に連れてくのは第五中隊やねん。
・ていうか国家情報院もすごく良い装置のはずなのに…何も生かされていない…。対面調査の場面もめちゃくちゃ泣けるシーンのはずなのにさらっとしているし看護師たちの前だし…。
・セットと演出がダサい。これは宝塚の演出頑張れポイントな気がする。別箱だからなのはあると思うがあまりにも暗転の舞台変換が多く、暗くなって役者がドタバタ動くのが見えすぎて学芸会のようだった。あと上手or下手にピンスポで話す場面も多すぎる。映像背景入れるならもっと使いまくればいいのに。高低差つけるシーンも謎だった。演出ダサいのは本当にげんなりしてしまったわ…。
この幕ももっとセンス良くできませんでしたか!!!!
と文句だらけになりましたがあーさのビジュアルは最強だし(ジョンヒョクは敬語ではないけど)(引きずる)夢白セリははっちゃけていたし主題歌良かったし、面白いところはあった!みんなドラマを見てほしい!(2回目)
ドラマハマってた時の感想
宝塚感想