誠実であること、正しく努力すること キューティブロンド

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再演を待ちに待っていたキューティブロンドを観てきた。

初演時の感想はこちら

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作品は相変わらずウルトラキュートでハッピーでポジティブ。続投の方も多くて、大好きなカンパニーにまた会えたことが幸せ!キャストは皆パワーアップしていて、特にヴィヴィアン役の新田恵海さんの成長には驚いた。台詞部分の声のキンキンした感じが消えて、とても聞き取りやすくなっている!2年間努力されたんだろうなあ。さーやのコメディエンヌぶりも健在で、本当に当たり役。地声を落として喋るのとか、早口になる部分とか、キャピキャピだけじゃなくてちょっとオタクっぽい感じの役作りもいい。アナ雪のアナと並んでエルが神田沙也加の転換点・代表役なことは明らかで、演じられる限りずっとさーやのエルが見たいなぁと思う。新エメットの平方さんもさすがお歌は安定、そして変身ぶりが良い!(シュガーのエメットはお歌の深みが桁違いだったけど、とにかく育ちが良さそうだった笑)

作品の好きな部分は初演の感想で語り尽してしまったのだけど。今年は特にエルの「自分に誠実に生きる」姿勢に胸を打たれた。「好きなものは好き」、「信念を曲げない」、それは毎日ピンクを着る、みたいな個人的なことから初対面のクライアントとの約束も絶対に破らない、ということまで一貫している。信用、信頼という弁護士として一番大事なことを最初から兼ね備えているんだな、と今ならわかる。ワーナーへの愛も最初からとても誠実で、彼の気をひくために他の男とどうこうなるとか、そういう方向には考えないんだよなあ。本当に良い女だな。ワーナーには勿体なさすぎる。エメットと出会えてよかった!エメットもエメットで、エルを一方的に導いているわけではなく、彼女によって彼の新しい良さが引き出されていて、ちゃんとそれに感謝をしている。「本は表紙じゃなくて中身が大切だけど、ボロボロの表紙の本は読んでもらえない」事実だ…。本当にいいカップル。 

chip on shoulder〜so much betterの流れは明るいシーンなのにいつも涙ぐんでしまう。エメットの血の滲むような努力をカラッと歌う強さ、エルを助けようとしてくれる優しさ、ちゃんとそれに向き合って努力して努力して成果を出した時のエルの喜びがはじける瞬間、見ていて自分のことのように嬉しくなる。そして同時に自分は「報われない」なんて言えるほど何も努力していない、頑張らないと…とすごく励まされる。誰もが努力したらそれに見合った結果が出るわけではないけど、努力しないと何も始まらないんだよね。
努力が報われる場面が本当に嬉しくなるからこそ、エルが教授にセクハラを受け、その後にさらにワーナーに侮辱を受ける発言をされるところは本当に悔しくて涙が出る。これは順天堂大のニュースを見たり「キム・ジヨン」を読んだ時に怒りのあまりに鳥肌が立った時と同じ気持ち。自分を馬鹿にする人間を見返そうと死ぬほど努力してやっと認められたと思っても、男性からのたった一言の侮辱で全てが消え失せて虚しくなる。エルを見ていて悔しくならない女性はいないし、それまで徹底的にエルを馬鹿にしていたヴィヴィアンが彼女の味方につくのも納得。エルがピンクのスーツに身を包み法廷に舞い戻るところは、女の敵は女じゃないんだ、と思える最高に嬉しく笑顔になるシーン。

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これだけ最高にハッピーな作品であるからこそ、違和感が気になって仕方ない部分もあった。「ゲイかヨーロピアン」はもう、偏見のステレオタイプ過ぎるし、「屈んでオッパイ」は訳が最悪。自分に自信を持とう、セクシーにアピールしようと歌うのは悪いことじゃないけど、さすがに「オッパイチラ見せで男を落とそう」は、この自立心溢れる作品にふさわしくなさ過ぎるのではないか?カンパニーの主要人物がツイッターで「劇場で掛け声歓迎、オッパイ!って叫んでください」とツイートしているのを見て本気で引いた。そういう作品じゃないだろ。タイトルの翻訳といい(何百回でも言うけど映画タイトルを「リガリーブロンド」から「キューティブロンド」にした責任者誰だよ出てこい)なんかもやっっとしてしまうのが残念。

エルはものすごく良い女だけど、そもそも本当はそこまで良い女にならなくたっていい。最低な侮辱をしたワーナーのことを笑って許してあげる必要なんてない。ポーレットは手に職を持って一人で店を切り盛りしていて、すでに十分に立派な女性だし、それだけで自信を持って人を愛し愛される資格がある。キューティブロンドの中の「いい女像」って、10年くらい前の「(男性にとって都合の良い意味で)しなやかさを兼ね備えた女性」というミーニングが強いのだな、と今回改めて思った。映画が20年前の作品なのだから、それは普通のことだとは思うんだけど、なにせ時代設定がよくわからず普通に現代アメリカっぽく見えるので脳が混乱してしまう。00年代ってつい最近の感覚だしなあ。衣装も古さを感じないし、携帯はスマホだし、でもノートパソコンはAppleだし(あれ懐かしすぎるけど、スマホに合わせてピンクのMacbookでもいいのでは…)普通に観ていたらやっぱり現代の話だと思うのでは…。いっそ70年代の話ですよ〜と言われたらすんなり受け入れられそうなんだけど。
まあ初演を観た2年前にはここまで嫌悪感を抱かなかったので、私も世の中も急スピードで変わっているんだろうなと思う。そしてあと数年でもっとこういう意識は進歩していくと思う、特に演劇業界は。この作品を愛してやまないからこそ、演出や翻訳で少しでも今の時代に即した価値観にアップデートしてほしいなあと思う。いずれにせよ、再再演はとても楽しみです。