ダディロングレッグズを観劇できました。チケットが取れてからも公演が無事に開催されるか前日まで半信半疑、というかもうほぼ諦めていたので感無量。
ここ20年くらいの人生で初めての事態だけど、おそらくこれが今年最初で最後の観劇でした。チケットが取れてからも本当に観られるのか半信半疑で願掛けも兼ねてツイートしてなかった。幕を開けてくれて、本当にありがとうございました。ずっと泣いてた。 pic.twitter.com/zrMa6v5ozo
— 桜花⛩ (@oukakreuz) 2020年9月8日
持っていたチケットが上演2日前に紙切れになる、みたいなことが2〜3月に連発していて、それ以降は体調的に避けていたので今回も勝手に7割くらい諦めていて、着席してから本当に劇場にいる…と震えていた。もう一生観劇できないような気になっていた。
— 桜花⛩ (@oukakreuz) 2020年9月8日
2020年最初で最後の観劇でした。まさかこんな年になるとはなあ…。放っておくと「観劇できたこと」への感動だけ語ってしまいそう。
シアタークリエは入場時のモギリは自分でチケットを切り取って見せる形式、客席は1席ずつ空けてあり(興業的にマイナスなのは重々理解しているものの、非常に快適だった…)退場も1列ずつの時間差、休憩は30分に延長(これもお手洗いが混まず快適だったな)、パンフレットやグッズの劇場内販売は無く日比谷シャンテorオンラインのみ販売に。あちこちにアルコール消毒液も置かれていて、かなり対策されているなと思いました。人と30秒以上対面することが無かったし、外食や街中にいる時よりよほど安心だなと感じた。コロナが流行してから劇場や映画館に全く行っていないのでデフォルトがわからないけど、どこもこんな感じならまた観劇できそうな気がする。
さてダディロングレッグズ本編について。この作品への愛はすでにかなり語ってしまっているので、今年新たに感じたことなどメモ。
社会情勢にマッチした作品
パンフレットや配信イベントのトークでも言及されていたけど、ダディは本当に「この社会情勢に非常に適した作品」だった。上演が決まった時は世界がこんなことになるとは思っていなかっただろうから、完全に偶然なのだろうけど、それにしても。2人劇でほぼ絡みがなく、感染予防で変更が必要とならない演出。(フェイスシールドをつけて実施した他作品の公演の様子も見ていたので、記憶と変わらない形で舞台を観られたこともかなり嬉しかった…。)そして「離れていて会えないが、あなたを近くに感じている」というメッセージ。パンフでコロナ状況下になってから各国から再演要望が来ていると書いてあったけど、納得。
「幸せの秘密」は毎回無条件に泣いてしまうのだけど、今年は歌詞の一言一句が心に刺さりすぎて号泣。
怖くない
幻 跡形もなく消えるから
来ない未来恐れない(中略)
急がない
じっとしてひたすら待つこと学んだ時
幸せはやってくる
なんなら聴き直しながら今も泣いている。劇場でも周りがすすり泣きの嵐だったので安心した。
坂本「日々のささやかな幸せをできるだけ大きく感じられるように、そして訪れる障害をなるべく笑ってやり過ごせるように。きっと多くの方がまさに今欲している何かが、この物語に詰まっています。」
(公開ゲネプロ後のインタビュー)
本当にこれなんですよね…。"新しい生活"に順応してきたつもりでいたけど、やっぱりみんな小さな我慢を積み重ねて生きていて、先の見えないストレスは確実に蓄積している。目の前に大きな問題があるわけではないけど、いつ終わるかわからない不安を常に抱えている状態はまさしく「日々の障害を笑ってやり過ごすための精神力」が必要とされていて。ジルーシャのしなやかな強さを見習いたい、自分もこんな人になりたいともう何百回目かわからない気持ちになった。
恋愛物語としてのダディロングレッグズ
これまでダディはジルーシャの成長物語:ジャーヴィスとの恋愛物語=9:1くらいの気持ちで見ていたのだけど、今回は6:4くらいのテンションで見ていた。2020年版の舞台に大きな変化があったわけではなく、前回は新演出に慣れるのに精一杯で、今回やっと新しい脚本に馴染んだ状態で観られるようになったということだと思う。前回はロックウィローや卒業式が無くなってしまったショックを受け入れるのに必死だったので…(笑)
韓国版ほど少女漫画!という感じではないけど、ダディって恋愛物語なんだな〜と腑に落ちました。やはり新演出でジャーヴィス側の視点が増えたことが要因だろうな。彼の一喜一憂がしっかり描かれていたので、旧演出ほどジルーシャだけがだまし討ちになったような気持ちにならない。(「有罪」の糾弾の台詞がソフトになったのもしっくりくる。)
ところで最近、恋愛物のコンテンツを見ていると「関係性の不均衡」がとても気になってしまう、という話を友人ともよくする。例えば教師と生徒とか、保護者と被保護者みたいな2人の恋愛は果たして搾取が発生していないのか?と考えてもやもやしてしまうわけ。源氏物語くらいになると時代が違いすぎてファンタジーのように捉えられるのだけど。「あしながおじさん」はその点、時代としては現代にもかなり近く、ジルーシャ目線でしかジャーヴィスが登場しない原作は若干アウトな気もする。おじさんがどんな意図を持ってジルーシャを援助しているかも見えないし。でもミュージカルのダディではそういう搾取や不均衡を感じないのは何故なんだろう。それはジョン・ケアードが生み出したジャーヴィスというキャラクターの魅力なんだろうな、と思う。ジルーシャがダディに「外見の特徴を教えて欲しい」と書いた手紙を読んだ時のジャーヴィスの感想がいい。
彼女の外見が私にとってどうでもいいように、私の見た目もどうでもいいはずだ
彼女が色白か色黒かデブなのか痩せなのかチビかノッポか、
そんなことは知らないし知りたくもない
それがなんだっていうんだ
彼女には”頭”がある
それこそが重要なんだ
頭脳、ウィット、恐れを知らない文章の切り返し
チャンスを与えられるのに相応しい子なんだ
ジャーヴィスがジルーシャと会う前に少しでも彼女の女性的な魅力に目を向けていたり興味を持っている様子があれば、2人の関係は一気に均衡を欠いてしまうだろう。彼女の生活の全てを援助している慈善家という関係性でありながら、個人対個人ではむしろジルーシャの方が主導権がある(ラストの新演出、あれはソーシャルディスタンスを配慮してなのかな?と思うけど、手を上に重ね合う掛け合いがその後の2人の力関係を示しているようでとってもキュンときた)絶妙なキャラクター作り。ダディの援助を受けて元々持つ頭の良さ、伸びやかな感性に加えて年頃の娘らしい情緒や自信、自立心を持つようになるジルーシャ。そして「チャリティ」の歌詞の通り、ジャーヴィスはジルーシャを救うことで彼に欠けていた愛や日々の幸せを見つける方法を学び、救われていく。新演出ではジルーシャがジャーヴィスに惹かれる理由もかなりわかりやすくなっているし、ダディとは別人格としてジャーヴィスを愛している納得感もある。はあ、ジョン・ケアードのバランス感覚に感服です…。2人の新婚生活も見ていたい。
トーク&ライブ配信イベントについて
今回実施されたトークライブ、とっっっても良かったですね!DVD発売前だったら特典として入れて欲しかった…。大道具セットや小道具の裏話、こんなことまで聞いていいの?というトークが満載でとっても楽しかった。観劇はイベント後だったので言及されていた道具を使う時はオペラで注目しちゃった。タブレットも洋書のように飾られていて可愛かったし。お二人が好きな台詞としてあげられていたのがどちらも私のマイベストだったのがとっても嬉しかった。(前回の再演時のブログでも書いてる)
「わかるでしょうダディ、人が性格を問われるのは最大の困難に立ち向かった時ではないのよ。勇気さえあれば危機や悲劇を乗り越えることはできるんだもの。でも、日々のちょっとした障害を笑い過ごすために必要なのは、強い、精神力なんです。」
— 桜花⛩ (@oukakreuz) 2020年9月5日
「いかなる人間にとっても重要な資質は想像力だと思うの。それは相手の立場に立って考える助けになります。親切で同情心と理解力のある人間にしてくれる。そして、それは子供の時に植え付けられるべきものなのです。」
— 桜花⛩ (@oukakreuz) 2020年9月5日
歌はそれぞれマイクを持って一曲くらい歌ってくれるのかなと思っていたら舞台の中から切り取ったようにそのまま3場面も演じてくださって感動した。それまできゃいきゃいしていたのに「チャリティ」で歌いながら涙を浮かべる芳雄さんのプロぶりに感動したし、マンハッタンは前後の台詞まであって可愛いし、幸せの秘密はリプライズverなのがときめいた。(ていうかリプライズverで無かったら3倍泣かされている…)「自分より相手の幸せを強く願うこと」リプライズも良い歌詞なんだよなあ…。
お二人とも40代になられたということだけど、真綾さんはいつまでも少女のようだし信じられないな。いやはや、私もしっかり8年歳を取っているんですね…。前々回でお二人のダディはもう終わりかな、と思っていたので予想外に再演して下さっていてとても嬉しい。これからもお二人のダディを観られるといいな…。
過去のダディ感想
完全に自分ごとだけど、これが今年の最初で最後の観劇で、ついでに妊娠中の唯一の観劇になりまして。それがダディでよかったな。これまで我慢して良かったな。そしてもう色々なことを諦めたつもりでいたけど、観劇後驚くほど元気であらゆることを前向きに考えられるようになっている自分に気付いて、やっぱり観劇は私の人生に必要な時間なんだなとしみじみ思いました。