原作の再構成が上手い 劇団四季「ゴースト&レディ」

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劇団四季の最新作、「ゴースト&レディ」を観劇しました。新作見るの久しぶりでわくわくした!

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本作は藤田和日郎氏の漫画、「黒博物館 ゴーストアンドレディ」が原作。観劇前に読みましたが、舞台は未読でも楽しめる内容だったと思う。私は原作との相違点を気にしつつ見てしまうタイプなので、個人的には観劇後に読んで補完するのが良かったかも?と感じた。

ロビーにはサイン入りの原作のパネル展示、書き下ろしもありました。

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線が美しい〜!!さて感想です。

原作の再構成がお見事!

観劇後の最初の感想は「これ、原作ファンの人は嬉しい舞台化だろうなあ」だった。全体的に原作へのリスペクトを感じつつ、削るところは潔く削ってうまくまとめていたし、こちらが想像していた以上に役者さんたちが原作のキャラクターそのもので驚いた!

原作が骨太でとても良くできている作品なので、ストーリーが面白いのは当たり前といえば当たり前。史実×オリジナル設定を舞台でやると歴史の授業みたいな説明過多脚本になってしまったり盛り込みすぎてテーマがわからなくなることが多いけど、ナイチンゲールの伝記×ゴースト・グレイとの愛×バトル要素などが絶妙なバランスで盛り込まれた原作を上手いこと抽出して再構成しているなあ、と感じた。

原作「ゴーストアンドレディ」との違い

まず物語をグレイが黒博物館のキュレーターに語るという構成を丸ごと捨てて、観客である客席にナイチンゲールの人生を語って聞かせる形にしている。グレイが亡霊として棲みついているドルーリー・レーン王立劇場、グレイの過去を語る劇中劇など『芝居』がキーポイントとなる作品なので、舞台をそこに絞っているのがわかりやすくて良かった。原作と同様に「真夏の夜の夢」の台詞で終わるのもぴったり。

原作漫画では「生霊」という人間の欲を具現化したモンスターのような存在が作品のコアな部分にあって、ナイチンゲールやホールはそれが見えてしまう人間でありスタンドのように使役して戦わせるような場面もあるのだけど、そのあたりは「魂の影を斬って生気を減らす」くらいのやんわり描写に。生霊をどうやって表現するんだろうというのが事前に一番気になっていたところだったので、結構バッサリ削るんだなというのが意外だった。(が、作品全体を見るとたしかにその要素はなくても問題ないかも…と感じたので変にバトルものに引っ張られずに済んで良い変更だと思う。)

尺の都合でしょう、ナイチンゲールの苦難も結構カット(最初から看護婦にはなっている設定だったり、看護婦たちとの衝突がなかったり、軍部の嫌がらせなど細かな史実部分は省略)キャラクターも役割に合わせて簡略化されていて、ナイチンゲールの元婚約者アレックス、部下の看護婦エイミーというオリジナルキャラがいる一方、戦地で仲間になったコックなどは省略。少年ボブはおそらく演者の都合で青年設定に。

地味に一番おお、と思ったのは「ゴーストは人間を殺すと自分も消えてしまう」という設定。これ原作にはなかったよね?デオンがホールの敵を殺しまくってると言ってたし。この設定の追加によって、デオンがフローを狙う理由(ゴーストとして彷徨うのを終わらせたい、また自分の最期を選んだ相手に起因させたい)もしっくりきたし、なによりフローが絶望したらグレイが殺す=グレイも一緒に死ぬ約束になっていたわけで、ロマンス的にも良い萌え設定だったなーと思う。これグレイももっと考えてほしかったけどな。

あと細かな部分でいうとサムシングフォーの「何かひとつ借りてきたもの」が銃弾からランプになっていること。これは黒博物館の設定自体が消えているので不要というのもありつつ、史実でもナイチンゲールのトレードマークがランプであったこと、「ランプの貴婦人」や「不思議な絆」の演出や2幕ラストのランプをモチーフにした舞台セットで活かされていて上手かったな〜。

入り込みやすいお芝居

脚本の潤色がうまいな〜と思うと同時に今回けっこう驚いたのが、演劇としての見やすさ、入り込みやすさだった。良い意味で四季らしくないというか…。具体的にいうと、セリフの多い芝居でありながら母音法があまり耳につかなくて、キャラクターひとりひとりの演技も自然だった。私は四季=輸入ミュージカルのレプリカ公演を代表とするような、役者独自の解釈より決まったキャラクターの型をなぞるイメージが強かったので新鮮に感じた。(もちろんレプリカ公演でも何度も見ていると役者さんの個性は見えてくるし、昔はよく四季のオリジナル作品も観たものだけど…やはり役者の個性よりは「誰が演じても同じレベルの作品を見せられる」ことを優先している印象がある)

また日本発作品なので当然なのだけど歌詞が日本語で歌われることを前提とした譜割りなのでシンプルに聞き取りやすい。

グレイ×フローが萌える

原作よりナイチンゲールの伝記要素が省略されていたからか?ロマンス要素は増していたように感じて、それがとても萌えました。人×人外ロマンスが好きなんだよ私は〜!

特にフローの元婚約者アレックスと戦地で再会した時に上から見ているグレイが明らかに嫉妬の表情をしているの、良いですね良いですね。1幕ラストの階段と盆(手動)の演出も2人の気持ちが同じ方向を見始めているのがわかりやすくてよかった。

グレイにとってフローは唯一の裏切らない人間で、フローにとってのグレイは「前に進む勇気をくれる人」という惹かれるポイントも良いよね。フローに必要なのは守ってくれる存在や癒しとかでなくて、背中を押してくれる人なんだよな〜。

演出

スコット・シュワルツの演出ということで、「ノートルダムの鐘」を彷彿とさせる場面もちらほら。特に光の使い方や死の表現。ナイチンゲールが死者を見送る場面や引き戻す場面はどれも神々しくて、作品の宗教観とよくマッチしていた。対照的にコミカルな場面のテンションの高さが意外で面白い。特にゴーストたちが出てくる場面は曲調もあってディズニーっぽい。

あちこちにイリュージョンが仕掛けられていて、幽体離脱とか壁抜けとか仕組みはシンプルなのだけど、毎回エッ?と引きつけられる。個人的にラストの雪の中のワイヤーアクションはちょっとやりすぎでは…と感じましたが。(床上でのグレイとデオンの殺陣がすごく格好良かったので、ワイヤーでスローな動きにしたことでダサくなったというか…急にピーターパン始まった?という気分に。高低差あるんだから上で普通に動いていいのに。)

かと思えばグレイの過去語りはあまりにオーソドックスで、影絵長くない?とちょっと冗長に感じた。昔の人々の衣装がモノクロで、グレイが青いジャケットを羽織ってそこに参加する、恋人はピンクで2人だけカラーという視覚的な演出は良かったです。グレイもサムシングブルーってことだよね?ね?

と、演出が盛り盛りなことで対象年齢をかなり広めにとった作品という印象がありました。もっと大人向けの大河物、しっとりしたラブストーリーに振ることもできたと思うけど、それこそこれから看護の道を志すかもしれないような若者、子どもも観客に想定しているのかな?と。バランス良くよくまとまっているけど、どういうテイストの作品と説明しづらい。大衆向けというか、ファミリーミュージカルぽいなあと感じた。個人的にはそれが本作が直球ど真ん中ではハマらなかった理由かもしれない。

キャスト

今回見たキャストボード

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真瀬フロー&萩原グレイが原作そのものな動きをされていて、そこに一番感動した!!特にフローの熱中していることに猪突猛進でちょっと周りが見えていなくて文字通りわたわたして挙動不審な感じ。視線がキョドキョドしているのよ。真瀬さんこんな演技もできるんだなあー。荻原グレイのふわふわしたゴーストの動き、話し方、フローに振り回されてちょっと嬉しそうな表情とか、芝居の話する時だけオタクっぽいのとかもまんまグレイだった〜!!!

岡村さんのデオンはヅカオタの心がざわつく格好良さ。殺陣がまったく男性に負けてない!

瀧山さんのホールのヒールぶりも良かったです。やっぱり重低音が素敵。重々しい足取り、ジーニー演じてた人とは思えない辛気臭さ。カーテンコールで全く笑わず最後の最後にちょっとだけ手を振っていたのがツボだった。

エイミー役の町島さん、お歌の高音がとても綺麗で可愛かったな。一緒に観劇していた管理職女性が、「上に詰められても頑張れるけど、後輩が辞めていく時に一番凹むのわかる…」と言ってたのが面白かったw「あなたが遠い」って凹んでる暇があったら頑張ってくれ〜と思ったけど冷静に真横にナイチンゲールがいたらそりゃ自分の無力さに凹むことでしょうよ。

 

…ということで「原作ファンだったらこんなに綺麗に舞台化してもらえたら(しかも絶対に歌上手い人しかキャスティングされないし)最高だろうなー」というのがいちばんの感想でした。サブスクにサントラ出てるし(開幕してすぐに出して偉いぞ四季!これもやはりオリジナルの強さだなあ)聞いてるうちに曲もスルメだな〜と感じているので、また観たくなるのかも。あと別キャストも気になってはいます。

追記:毎日サントラを聴いていたら曲が頭の中でぐるぐるしていてめっちゃ観たくなっている…!特に「不思議な絆」と「偽善者と呼ばれても」の私が死んでも〜の絶唱が素晴らしくて、また聴きたいよーー。

 

四季観るたびに久しぶりだと言っているな…

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