「赦し」の尊さ ミュージカル ジェーン・エア

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ミュージカル「ジェーン・エア」を観劇したので感想。


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いや〜全キャスト良かった〜!!!お芝居と歌の上手い方が揃っているとこんなに完成度が高い芝居が見られるのだなあ。正直「ジェーン・エア」という作品は原作の時代が時代なので登場人物には共感できない部分も多く、ストーリーにも納得いかないところは多々あり古典として割り切って見ているのだけど、そこを差し引いても久々に「芝居を観たなーー」と感じる、満足度の高い舞台でした。演劇的な脚本も、ジョン・ケアードらしい美しいセットも、讃美歌のようなメロディの曲たちもしみじみと良かった。

ジョン・ケアード版「ジェーン・エア」

松たか子さん主演の旧演出verはWOWOW放送を見たことがあるはずなのだけどあまり覚えておらず、新演出を新鮮な気持ちで観た。1,2年前にNTLのジェーン・エアを見たのでストーリーの方は記憶に新しい。

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こちらのNT版を見た時、「ラブストーリーというよりジェーン・エアという女性の人生史だな」と感じたのだけど、今回は「信仰の話」だと感じた。ロチェスター卿の事情、苦悩部分を掘り下げていること、井上ロチェスターが母性本能をくすぐるキャラクターになっていることでラブストーリーとしても見られる。が、それにはちょっとオーソドックスすぎる印象もあり。

前述した通りそもそもジェーン・エアという作品が現代的な感覚では抵抗を感じるポイントが多いし、ロチェスターの言動も普通に最悪である。恋の障害として描かれる先妻バーサも、「彼女はなぜ狂ったのか、他のサポート方法はないのか」と気になってしまう。牧師のアプローチも意味不明だし、ラストのジェーンの選択も自己犠牲が過ぎるのではと感じる。しかしまあ全てはヘレンを教祖とする「赦し」教に入信したジェーンの修行だと思えば…理解できるかな…みたいな…。キャストの力もありヘレンの存在感が終始大きく、ジェーンの人生そのものを導いているように見えた。ヘレンの「あなたは他人の愛を重く受け止めすぎている」という台詞からも作品の「求めるより与えなさい」というメッセージが伝わってくるし、それは恋愛的な愛の交換というよりは神への愛、人類愛なのではないかなと。ミセス・リードの看取りのシーンが大きく扱われていて、ジェーンの魂の成長、「赦し」の尊さが際立っていたと思う。NTLを見た時以上にキリスト教的な世界観を感じたな。(魂レベルをそこまで上げて、死んだ後にしか報われないというのが私には納得できないのですけど)

ポール・ゴードンの曲も美しく、繰り返される「赦すの」や「天使が見ている」というメロディが耳に残りどことなく讃美歌のようだった。ソロもデュエットもとっても綺麗。あれだけ上手い人を揃えているのだからコーラスをもっと聴きたかった気もしますが。

独白や長い台詞回しが多かったり、曲も全体的に穏やかで大きな波やノリの良さもないので、正直「配信で見ていたら眠くなっていたかもなー」とも思ったのだけど、観終わって数日経つとじわじわと映像も見たくなっている。久々にミュージカルでこんな重厚な演劇体験をできて嬉しい。

大きな樹が中心に立ち、雄大な景色が見えつつ置きっぱなしの道具を使い回すジョンらしい美しい舞台装置、舞台上に配置した客席も面白かった。2回観られるならあの席に座ってみたかったなー。そしてお衣装!!今回リニューアルされた衣装がどれもとーーっても素敵でジェーンに似合っていた。あのクラシカルなワンピース欲しいよ。

キャストについて

屋比久知奈さんと上白石萌音さん、大好きな女優さん2人が役替わりとあってどちらを見るかとても悩んだのだけど、ストレートに役の印象そのままマッチしそうだと思った屋比久ジェーン、萌音ヘレンの回にしました。配役の設定が似た作品である「ダディロングレッグズ」で組んだ芳雄と萌音ちゃんを見比べたい気持ちもあったけれど。

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ジェーン・エア:屋比久知奈

屋比久ジェーン、思っていた通りとてもとても良かった!芯の強さ、自分でもどうにもできないような意地っ張りなところ…が彼女の印象にマッチしていた。努力家で繊細で不器用そうなところはN2Nのナタリー役も良かったので期待していた。

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この作品の大きなテーマは「赦し」だけど、屋比久ジェーンの「赦し」は彼女の不断の努力によって身につけたもののように見えた。本来は激しく、反骨心の強い彼女がヘレンという運命の人と出会って、彼女の遺志を受けつごう、自らを変えようと歩み続けてきた結果としてあるもの。萌音ちゃんのジェーンは見られていないけど、生まれながらの仏、慈愛の人というイメージがあるので、彼女のジェーンの「赦し」はもっと内側から自然的に生まれているものではないかと想像する。(芳雄のインタビューでも2人のジェーンを比較してそんな話があった。)

屋比久ジェーンはかなり早い段階から「強く自立した女性」で、それ故に嫉妬したり、初めて愛に翻弄されることの戸惑いが伝わってくる。ロチェスター卿への愛も「自分のすべきこと」という使命感や信仰が混ざっている部分もあるのかなと感じて、個人的にはこれまで見てきたジェーンよりも最後の選択を受け入れられた。(いつも、なんでこんな男がいいんだジェーン…と思ってしまうので…。そして萌音ちゃんジェーンは聖母炸裂してそうなので、たぶん私は「萌音ちゃんにはそんなおっさんよりもっといい男がいるよ!!」と思ってしまう。ジルーシャですらそうだったのでw)

あとクラシカルなお衣装が本当に似合っていて、凛としたお顔が美しかった。芳雄ロチェスターを抱きしめるところ、芳雄もかなり頭身が高いはずなのに屋比久ちゃんの顔が小さすぎてびっくりしたよ…。

ヘレン・バーンズ:上白石萌音

萌音ちゃんの演じるヘレンは聖母そのもので、そりゃあジェーンの人生がひっくり返ってしまうわけよねと納得させられたし、歌声のフレーズひとつで泣かせてくる。(ラストの登場は完全にフォンテーヌだ…)ジェーンにとっての運命の人はロチェスター卿ではなくヘレンでしょと思っているので、最初は意外だったこの役替わりは正解だったなと思う。ダブルキャストでなければ、出番の少ないヘレン役を萌音ちゃんで見ることはできなかっただろうし。

エドワード・フェアファックス・ロチェスター:井上芳雄

身分はあるが偏屈なおじさん井上芳雄、結構見ている気がしたけどダディの印象が強いだけですね。ジョン・ケアードは「駄目な男が自立した聖母のような女と出会って変わる」のがツボらしく、萌音×芳雄はぴったりなのだろうなあ。

「ハンサムではない」「醜い」と連呼していても王子様感出ちゃってるよ…!と思いつつ、言っていることはめちゃくちゃなのに急に子犬のように弱ったところを見せてくるから母性くすぐられちゃう…みたいな役作りが上手かった。プロポーズのソロとかラストぼろぼろになって泣いているところはぐっときてしまうし。占い師の変身ぶりも本人のノリノリさが楽しい。いやまあ、やってることは相変わらず最低なんですけど。過去の結婚の経緯やアデルの母親への純愛話をして同情を引くような見せ方をしているのだけど、でもやっぱり黙って重婚するのはどう考えても詐欺だろう…。あと試し方がさあ、20歳年下の相手にすることじゃないよ…。

想像していたよりしっくりきたな、と思ったのは役と役者の年齢差がマッチしていたことも大きい。私は俳優が何歳の役でも演じられるのが舞台の良いところだと思っているものの、カップルの年齢差は気になってしまうのだよなあ。(ダディでいうと、ジャーヴィスとジルーシャは近い年齢であってほしい派なので、萌音ジルーシャには年齢の近いジャーヴィスと組んでほしかった)今回はロチェスターとジェーンが20歳以上差があるという設定なので芳雄と屋比久ちゃんのバランスもちょうど良かった。

 

そして今回、他のキャストの方々が1人何役も演じていらっしゃるのですが、それぞれ本当ーーに素晴らしかったのであった!!

ヤングジェーン/アデイル:三木美怜

まず子役ちゃんが上手すぎてびっくり。子ども時代のジェーンは1幕の演技も2幕の歌も上手で泣かせにくるし、アデイルは日本語・カタコトのセリフ・フランス語にラテン語と頑張っていてすごかったよ〜。1つの舞台の中で2役をしっかり演じ分けられるのすごいよおお。

ミス・スキャチャード/ベッシィ:樹里咲穂

キャスト表ではこの表記で、ネタバレを避けるために敢えてなのだろうけど…いやはやバーサが圧倒的でしたね。樹里ぴょんの芝居魂を見たよ。3役とも姿勢も顔つきも声も全然違って、最初気づかなかったくらい。バーサはジェーンと一人二役で演じるカンパニーもあるくらい重要な役で、私も最初はWキャストが役替わりするならジェーンとバーサじゃないの?と思ったりもしたんですけど。樹里ぴょんの演技はすごく良かったものの、演出的にあくまで「狂人」という記号的な描かれ方をしていたのが残念ではあった。NTLのバーサがすごく良かったので…ジェーンエアという作品の解釈を現代的にできるかはバーサにかかっていると思うのだよな。

ミセス・リード/レディ・イングラム:春野寿美礼

オサさんを外部の舞台で観るのがものすごく久しぶりで、こんなに演技のできる方だったのだなあと驚きました。歌の方というイメージだったので。というかオサ・じゅりを同じ舞台で観られるのが当時花組を見ていた自分にはエモでしたが、そんな感傷に浸る暇がないくらい2人ともバリバリに女優だった…。ミセス・リードの死の間際の演技がとても良かった。最後の最後まで意地悪で救いがなくて、でも幼いジェーンに言われたことをずっと引きずっている弱い人なのが伝わってきて。彼女を赦すことでジェーンは人としてレベルアップしていったね。

ジェーンの母/ソフィ/ブランチ・イングラム:仙名彩世

仙名さん、現役時代はほぼ見たことがなかったんですけど、お歌も演技も上手い〜!嫌味なイングラム嬢もほっこりかわいい使用人も素敵だった。芳雄とのデュエットもばっちり。

折井理子さんのグレースも不気味でミステリ要素を深めていたし、意地悪な兄・イングラム弟・牧師とクセ強男性を3役演じ分けられていた神田さんも良かったな。とにかく出てくる方全員が上手くて、台詞を繋いでいくような脚本に重厚感があったなー。

 

古典特有のモヤモヤはありつつ(笑)あまりに素晴らしいキャストに何度も涙が浮かぶ、良い演劇体験だった。最近は自分が元気になれるような演目を選んで観劇しがちだったので、こういうものを観るのも劇場の醍醐味だよなあと思うなどしました。逆キャストverも映像で見られると良いな。

余談ですが芳雄ラジオに女子2人がゲスト出演している回を聞いて、2人の仲の良さとおっとりとした南出身の空気感がとても良かった。おじさん芳雄がいじられキャラになっているのも新鮮で面白かったです。