キンキーブーツが2022年に再演されると発表されてからずっと、観劇するか迷い続けていた。私は三浦春馬さんの演じるローラが本当に本当に好きで、他の役を演じる俳優としての彼も大好きだった。彼がいなくなってしまったことがあまりにも悲しくて、この悲しみを他人と共有したいとも思えずSNSで名前を出すことも控えていたし、関連の話題は今もミュートにしている。今でも考えると涙が出てくるし、自分の気持ちをコントロールできないのでこの2年間は一度もキンキー日本版の音源を聴いておらず、カンパニーが公開した追悼の動画も再生できていない。
だから再々演が発表された時、とても複雑だった。主要キャストの中でローラだけが変わったキンキーブーツを見て自分がどんな気持ちになるか想像ができないし、ネガティブな感情を持つかもしれない、と思いながら観ることは役に向き合っている城田優さんにも失礼だろう。けれど三浦ローラが出演できなくなった理由と新ローラの登場を切り離して考えられるなら、舞台オタク・一作品ファンとしては新キャストは絶対に見たい。日本版が上演される前からBWでも観劇して好きだったキンキーブーツを、このまま二度と観られない・聴きたくない作品にしてしまいたくはない。いろいろ考えて、私と同じくらい初演版を愛していて、私が取り乱しても受け止めてくれそうな長年の舞台友達にお願いして一緒に観劇していただく(普段はソロ観劇派)ことにした。
観て良かった。数年離れていても幕が開いた瞬間から全ての歌詞と振付が蘇って、ああこれがキンキーだ!と思い出した。ダンスナンバーでは身体が揺れるし、フィナーレでは涙が止まらなかった。
他の再演作品を観る時と同様に、ところどころ改変された脚本や演出の意図を考えながら、新キャストを迎えたカンパニーの変化を楽しむことができた。城田ローラを見ながら三浦ローラのことをたくさん思い出した。でもそれは恐れていたような「春馬君はこうだったのに」という否定的な比較ではなくて、「城田君はこういう解釈で、春馬君とこういうところが違うな、それによって作品もこういう風に変化しているな」という純粋に同じ作品を違うキャストで見るときのフラットな感想だった。そして私にとっては三浦春馬さんが亡くなってから初めて、彼のローラをしっかり思い出し、ポジティブな気持ちで懐かしむことができた時間だった。やっと彼を失った悲しさと、彼のローラの思い出を切り離して考えることができた。
城田ローラは非常にミュージカルの王道を押さえたローラだな、と思った。恵まれた体格やどこにいても目立つ華がセンターに相応しく「ローラのいるところに嵐が起きる」を体現しているし、裏返すと田舎町では異質さ=キンキーさが際立つ。自分の見せ方もわかっている動き。ミュージカル俳優としての城田優はエリザベートやロミジュリから見ていて、4STARSの時に随分上手くなったなあ、かなり練習したんだろうなと思ったものだけど、今回また歌が良くなっているなと感じた。英語を多用する歌詞(これは今回もちょっと引っかかったけど)の聞き取りやすさはさすが。ダンスのキレは三浦ローラが異常だったのだな…と実感したけど(全編ヒールを感じさせないしなやかな動きだったよね)、過去BW版や来日版のローラと比較して城田ローラが踊れていないという程ではない。
1幕は「(一般的なイメージの)ドラァグクィーンぽさ」を全面に出してきたことにちょっとギョッとしたけれど、そのぶんMy Father's Sonでの傷付いた青年としての顔との差がはっきりしていて、彼にとって女装は本当に「鎧」なのだなとわかりやすい。また2幕の成長が著しくて、「チャーリーと一緒に育っているローラ」だと思った。対等に喧嘩して一緒に反省してる感じ。小池徹平くんと城田くんが実際に同級生であるということが良い方向に作用しているのかな。三浦ローラはチャーリーの言葉に傷付いてはいるが本気で怒ってはいなさそうな、女神のような包容力が印象的だったので、城田君の等身大の少年らしさの残るローラは新鮮だった。2幕でドンを諭す場面は一気に大人になっているのを感じたし、ラストの弾ける笑顔がとってもキュート。大きいけどなんかかわいい。三浦ローラは猫っぽかったけど、城田ローラはワンコ属性だなあ。
城田ローラを見た後だと、三浦ローラはかなりストレートプレイに寄った、演技のローラだったなと思う。あのガラスのように繊細でいながら人生5回目くらいの包容力をもつ女神のようなローラは日本版の解釈だったのではなく、彼だけが作り得たローラなんだな。Just Be!を聴いて幸せが身体中に駆け巡る感覚を思い出しながら、「本当にもう二度と春馬君のローラは見られないんだ」と寂しさもこみあげていた。正直いうと私の中で春馬君のローラは永遠のナンバーワンで、きっとこれから誰がローラを演じても私の中では彼を超えることはできないと思う。でもそれは誰のローラも見たくないという意味じゃない。濵田めぐみさんのエルファバや岡幸二郎さんのジャベールと同じで、私の中に永遠のローラがいる。これほど愛せる初演キャストに出会えて幸せだった。
ローラの話ばかりしてしまったけど、もちろんキンキーを作っている全キャストが大好き。今年は特に勝矢さんのドンとひのさんのジョージが最初から好きで好きで、出てくる度ににこにこしてしまった。ボクシング以降はもちろんそれ以前のドンもかわいくて抱きしめたい。全員、憎めなくて人間味があるんだよなあ。エンジェルスは再演を重ねるにつれて個性が爆発していて客席の拍手に呼応して輝いているなと思う。みんな大好き。
本当にそれぞれいろんな思いがあっただろうに、出演を決意してくれた皆さんに感謝しかない。パンフレットでソニンちゃんが「これから新しいローレンも生まれるだろうけど、今回はつなぎのような公演だから引き継ぐためにも出演を決めた(意訳)」といったことを仰っていて、本当にそうなんだろうな、だから今回を見ておきたかったんだよな、と思った。これからきっといろんなローラやチャーリーが日本カンパニーでも生まれていくのだろう。今回はタイミング的にローラだけが交代したような形になったけど、初演から10年近くも経てば色々な交代が起きるだろうし、韓国のようにダブル・トリプルキャストで見てみたい気持ちもある。私自身は初演・再演時ほどの熱意を持って通うことはないかもしれないけど、これからもこの作品を必要としている人たちのために上演を続けてほしい。キンキーを見て人生が変わる人、まだまだいると思うので。
過去の日本版キンキー感想
※この2年の間、定期的に三浦春馬さんのファンの方々が過去の感想記事を拡散してくださっているようなのですが、ここで改めて、城田優さんを侮辱する文脈で私のブログを使用することは控えていただくようお願いします。