10年先まで再演してほしい マチルダ・ザ・ミュージカル

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念願の日本初演!マチルダ・ザ・ミュージカルを観劇できた。昨冬にはネトフリの映画版の公開もあり、気持ちを盛り上げに盛り上げてきたこの数ヶ月。ネトフリ感想のブログにも軽く書きましたが私は幼少期からロアルド・ダールの原作が大好きで、舞台化した際も嬉しくて嬉しくて、BWとWEで観劇しているファンです。いろいろなハードルから日本での上演はないだろうなと思っていたのに、輸入してくれて本当に本当に嬉しい。

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この幻想的で情報量の多いセットを久しぶりに見ただけで泣いていたよね。(アクキーはヒカリエのデジタルスタンプラリーの景品で貰ったもの。太っ腹な企画ありがたい!)

初回は幕が開いてからずーっと涙が出ていたので全然冷静な感想になっていないと思うのですが、自分用のメモしておく。

やっぱりマチルダが好き

数年ぶりに舞台マチルダを観て、やっぱり大好きだ〜!!!と思った。もうそれに尽きる。舞台セットが死ぬほど好き。曲が好き。改めて観て、やっぱりちょっと癖があるというか好き嫌い別れるというか、完成度がパーフェクトに高い作品というわけではないとも思う。マチルダがオープン年にトニー賞を獲れなくて、なんでだよ!?と思って同年に受賞した「キンキー・ブーツ」を観て「あーそりゃマチルダ獲れないわ、賞を獲るのはこういう作品だわ」と納得した体験がある。マチルダは大人から見ると蛇足っぽい場面も結構あるし、起承転結がスッキリした作品を見慣れていると「トランチブルのいじめシーンまだ続くの?」「勧善懲悪じゃないんかいw(悪人はみんな悪人のまま終わる)」とか思ってしまうのだけど、私はそういうところも含めた"児童文学っぽさ"、というかもう”ロアルド・ダールの世界”がとにかく大好きなのだ。

マチルダは天才で超能力も持っているけど、彼女の一番すごいところはどんな相手にも「それはただしくない」とはっきり言えるところ。そしてその正義感、倫理観は親の教育ではなく読書から身についたもの。「本を読む」ことはマチルダのように特別じゃない、どんな立場の子どもにもできる身の守り方なんだよと、それを伝えてくれるのが国民的児童書であることが嬉しくなる。(一切本を読まないワームウッド夫妻も非常によい反面教師である)

そう、ロアルド・ダールって本当にブラックユーモア満載で意地悪なんだけど、根っこでは「ふつうの子ども」への目線はあたたかく、優しいのだ。(甘やかされてもうどうにもならなくなったクソガキには容赦がないが)

1幕冒頭の"Miracle"では凡才の子どもを持ち上げる親バカたちを痛烈に皮肉っていても、"Revolting Children"では「僕たちはママの奇跡!」と回収する歌詞を入れて、「やっぱりすべての子どもが奇跡で可能性の塊なのだ」と伝えてくれる。"When I grow up"も開始3秒で涙が出る名シーン(あそこにブランコを持ってきた演出家は本当に天才)で、子どもが健やかに夢を見られる世界であれ…と願わずにいられない。そしてマチルダが超能力を失うというラストは久しぶりに舞台版を見て思い出したのだけど(映画版ではファンタジックなまま終わる)これもまた、"特別"でなくてもよくなったこと(天才であることに変わりはないけど)が肯定的に描かれていてやさしさを感じるのだ。

個人的に母国語で見たことでより強く突き刺さったのは、マチルダの「正しさ」のナイフのような鋭さだった。繰り返される「我慢しているのはそれでいいと言ってるのと同じ」という歌詞がグサグサときた大人は多いのでは…。ハニー先生がトラウマからフラッシュバックしているときに「それってただしくない!」と言ってしまうところ。すべての人が現状を変えられる力を、元気を持っているわけじゃない。大人は生活をするだけでも大変なんだよ。自分の半径5メートルを少しでもましにして、気持ちを切り替えて頑張っている人に「でもそれって根本的な解決じゃないよね、なんで変えようとしないの」と言ってしまえるのは、まだ5歳の子どもの残酷さだ。

ただ大人のエゴとしては子どもたちにはこの気持ちを持っていてほしい。正しくないことには正しくないと言って、立ち向かえる人であってほしい。マチルダのおかげでハニー先生も同級生たちもきっとそういう人に少し近づいているはず。

大人の視点からはウッとなるところはあるものの、マチルダは5歳の子どもから見た世界の話なので、そこにお邪魔しているという意識で観劇していた。夢と現実が地続きだった感覚、家庭と学校が全てだった頃の大人たちの存在感。上級生がずいぶん大人に見えたこと。私は原作をリアル5歳の頃に読んでいたのだけど、この舞台を子ども時代に観られる子どもたちが心底羨ましい。客席にいる子どもたちがトランチブルのシーンに怖がり、最後ニコニコしているのを見て、自分の娘がこれくらいの歳になるまでは再演し続けてくれ…!!!と祈った。

日本版の演出について

今回、観劇前に一番不安に思っていたのが「キダルト(キッズとアダルトの合成語。子どもに見える大人キャスト)」演出のこと。本国では子役が中心となる作品なのに日本では子役は3人だけ、残りは大人が演じますよとさらっと発表されて、正直これをチケット発売前の段階で言わないのは詐欺じゃないの?という気持ちは変わらないのですが(なのであまりホリプロありがとうと言い過ぎたくないのですが…笑)実際に観てみた感想としては、「今の段階ではこれはこれでアリかな」という感じ。というのも、パワーが必要なコーラス部分などでは子役だけでは歌詞が聞き取れなかったかもな、と感じる箇所もあったので。またキダルトキャストの方々も皆さん演技が素晴らしくて、途中で「大人じゃん」と白けてしまうこともなく楽しめた。(本国も一部上級生は大人が演じているしね)ただWE,BWの圧倒的な子役たちのパフォーマンスを見ている身からすると、いずれは子役たちが演じるマチルダが見たい、というのは正直なところ。日本で子役の出演するミュージカル作品が増えて層が厚くなり、再演を重ねていくことでいつか…叶えばいいなあ。

舞台セットや衣装は基本的にオリジナルを踏襲しているし、役の解釈としても日本独自路線もそこまで感じず、キダルト以外は忠実に輸入している印象だった。(国民性として、ワームウッド夫妻の邪悪さは軽くなっていると思ったけれど)

しかしなんといっても秀逸だったのが訳詞!!!小説から引っ張ってきた長いセリフの多い芝居で、歌詞も言葉遊びが多いので日本語版にするのは相当難しいだろうな…と思っていたのだけど、驚くほど綺麗に歌詞が音にはまっていて。特に"School Song"のアルファベットが日本語の歌詞に完璧にハマりながらキューブが埋め込まれていくところ、鳥肌がスタンドオベーションでした…あの場面だけ何百回も観たい。"Pathetic"もハニー先生のオドオド早口が綺麗に音に合っていた上に聞き取りやすかったし、全体的に自然で素晴らしい訳だった。Revolting〜の「ムカつく」連呼だけちょっとダサいなと思ったくらいだな。

キャストについて

2回観劇しまして、キャストはこちら。本当はガラッと変えて観たかったのだけど日が合わず、トランチブルとミスハニーだけ変わったくらいかな。


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今回すーーーーごく好きだったのが昆ちゃんのミス・ハニー!!過去一番の当たり役では!?と思うくらい役作りが良かった。咲妃みゆちゃんも大好きな女優さんだけど、昆ちゃんの教育者としての器の大きさと弱さとコミカルさのバランスが完璧にミスハニーだったわああ。お歌ももちろん完璧でした。

ミス・トランチブルは木村達成さんと大貫勇輔さんで見て、お二人ともめちゃくちゃ楽しんで演じていらっしゃるのが伝わってきた。いや絶対楽しいよねトランチブル。実はこんな過去が…みたいな要素が全くなくここまで振り切れていてぶっ飛んでる悪役なかなかいないもの。お二人とも普段はわりと2枚目な役で拝見しているけど完全に別人で、何らかの賞にはノミネートされるのではないかな〜。大貫さんの方が映画のトランチブルぽくておばあちゃん校長って感じがしたな。そしてブルマから見える太ももがダンサーすぎて面白かった。個人的には達成のマダムっぽさのあるトランチブルがかなりツボで好きだったな、また見たい。(ていうかトランチブルからのスリルミー、演じる方も見てる方も情緒がおかしくなりそうなんですが!?)

ワームウッド夫妻は斉藤さん×霧矢さん固定で見たけどお二人とも良かった!特に斉藤さんのコメディアン(本業)ぶりと役がマッチしすぎていて。普通に悪人なのだが、面白すぎて憎めない。霧矢さんは退団後初めて?拝見したのだけど相変わらずお歌がうまい。そして彫りの深いお顔立ちがタンゴ似合いすぎなんだよな。

子役たちについては、つい「3時間も役になりきって、歌詞と振り付けを覚えて人前で演じられるなんてすごいねええええ」と思ってしまってなかなか冷静な評価はできないのだけど(笑)特にブルース役の後藤レイサくんの絶妙な間の取り方が面白くて光っていた。マチルダの寺田美蘭ちゃんは、もちろん主演として頑張っていたと思うのだけど、台詞回しがちょっと単調かなと感じた。お歌は良かった。最近ジェーン・エアで見た子役の子がもんのすごく上手くて歌と芝居で泣かせてきていたので、そして本国の大人顔負けのマチルダ役の少女たちを見てきているのでハードル上げてしまっている。なんにせよ、子役の皆さんはこれからいっぱい舞台で活躍してほしいな。

 

2回目の観劇はリピチケでかなり良い席に座れたんだけど、休日にも関わらず空き過ぎていて私は焦ったよ…メリポピの時も感じたけど、やはりオーブのキャパでファミリー向け作品をロングランするのは難しいのかな。あと10年再演して貰わないと困るのでもっと売れてほしい!!私が大富豪だったら10歳の子どもたちを招待するのに…。