喪失と再生の物語 next to normal

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9年ぶりの再演!!!!ずっとずっと観たかった大好きな演目、ネクスト・トゥ・ノーマル(N2N)を観劇できたので感想。もう好きすぎていつも以上にまとまらないと思うけど、9年前の感想ツイートを漁りながら「ブログにまとめておけばよかった!」と後悔したので今回は記憶があるうちに残しておきます。

望海さんダイアナのNチームを2回、安蘭さんダイアナのAチームを1回観劇しました。曲も演出も大好きな作品に大好きな人が出てくれて本当に嬉しい!!9年前は兵庫で観たので、実はクリエでN2Nを観るのは初めて。

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興行的に成功とはいえなかった初演が信じられないくらい凄まじいチケ難になっていることに(キャスト理由もあるとは思いますが…)驚き。再演しなかったことが期待値を上げていたのかな。9年を経たことで自分自身も作品から感じることが変わり、心の病というテーマに対する客席の空気が変わっていることも感じました。社会が作品に追いついた、めずらしいパターンだよなぁ。

※以下、思いっきりネタバレがありますので未見の方は自衛お願いします(ていうかN2Nは絶対にネタバレなしで見た方が良いと思うのでいつか観るつもりの方は読まないで…)

家族の物語

2チーム通じて「これはダイアナだけでなく家族の話なんだ」というのを強く感じたな。前はもっとダイアナ中心に見ていて、ナタリーとヘンリーのことは物語のサブ的に見ていた。今回はN2Nは家族、特にダイアナとナタリーの母娘が軸となった話なんだ、だからこの曲もこの場面も必要なんだとやっと作品の全体が掴めた気がする。

例えば"I Miss the Mountains"は以前は必要性がよくわからないな…と思っていた曲なのだけど、ナタリーの恋を見て自分の若き日を思い出し、豊かな感情を取り戻したくなる→精神安定剤を捨てる→バランスを崩す、という流れの始まりで、重要なキーポイント。17年間止まっていたダイアナを最初に動かしたのは実はゲイブでもダンでもなくナタリーなのだな、と気付いた。そして電気ショック中にトリップしたナタリーと会うこと("Wish I were Here")、"Why Stay?/A Promise"に見るように度々ダイアナ↔︎ナタリー、ダン↔︎ヘンリーを重ねる演出。ラストに救いを求める相手がナタリーであること。どうしたって一方的に親に巻き込まれたナタリーが可哀想だよと思ってしまうけど、やっぱりナタリーがいたからダイアナは本当の意味で良くなりたいと一歩を踏み出せたのだと思う。(どんな治療をしたって結局本人が治りたいと思っていないと意味はないのだよね)

私はゲイブという存在があまりにも好きすぎて(何回も言いますが舞台におけるイマジナリーキャラクターが死ぬほど好きなんだ…)N2Nについて考えるときいつも「ゲイブとは何なのか」をひたすら掘り下げていた。ダイアナの現実逃避の象徴、理想の家族の具現化、ロマンスの一部。ダイアナが記憶を失っている間の彼は?彼自身の意思のような振る舞いやラストのダンへの接触はどういうことなのか?彼の望みは何なのか?彼にとっての救いはあったのか?などなど。でも今回、それらは大きな問題ではなくて、大事なのはゲイブではなく今ここで生きている家族3人のことなのだと。ゲイブをエリザベートのトートのような擬人化的な存在として捉えていたけど、もっとシンプルに、彼はダイアナの傷そのものなのだと感じた。ゲイブに向き合うことは死んだ赤ちゃんではなく彼を失った家族のために必要なこと、そして家族3人がそれぞれに自分の傷に向き合い、未来に向かうことができたラストはそれだけで光なのだ、と思うことができた。

双極性障害について

ダイアナの心の病についての理解は先述した通り、社会と自分の認識がぐっと進んだことを感じた。初演時はダイアナから見た世界の変化についていくので精一杯で文字通り振り回されていたのが、この9年の間に「調子が良い日もあれば悪い日もある(そしてそれは見た目だけでは分からない)」ことや「100%完璧な治療法はなく、薬も医師も効くものに出会うまで試していくしかない」こと、「家族のどんな振る舞いが患者を追い詰めるのか」もしくは「患者を支えてきた家族が心の病に陥ることも多い」みたいなことに少しは知識がついて、登場人物たちの動きに違和感を持たずに受け入れられた。安蘭さんも「初演時は見た目からちょっとエキセントリックな人に見せていたが、今回はどこにでもいる普通の人っぽさを意識している」と仰っていて、そういえば一昔前はそもそも誰でも罹りうる病気なのだという認識がここまで広まっていなかったよなあ、と思い返していた。逆に10年以上前にこの作品をオフブロで成功させたチームはすごいとつくづく思う。アメリカでは薬の名前の羅列で笑いが起こるくらいメジャーらしいので、その点まだまだ日本は遅れているのだろうけど。(家族ミュージカルの金字塔であるサウンドオブミュージックの名曲"My favorite thing"をパロって精神薬を並べる"My psychopharmacologist and I"、皮肉が効いていてめちゃくちゃ好き)

あと昔観ていた時はドクターのことを治療費のために不要な治療を長引かせたり、危険な電気ショック療法を勧めてくる詐欺師だと思ってたけど、当然ながら彼は彼の仕事をしているだけであって、別に悪人なわけではないんだよね。むしろダイアナの症状を一番客観的に見て医学的に正しいアドバイスをしているし、本当に治そうと努めてくれているのがわかる。精神科の医療に構造上の問題が多々あることは事実だろうけど、彼のやり方で治る患者もたくさんいるはず。ダイアナの場合だって、一歩引いて見ると結果的にはプラスに働いているのだし。

実際に薬を飲んでいる方が、ハイな時は電球がバチバチ光っているような気分になるし、ダウナーな時には実際に「山に行きたい」と思うことがあると聞いて、きっと自分では気付けていない演出の意図が他にもあるのだろうな…と思った。パンフに注釈がない有名人の名前とかもね。

新演出について

初演はオフブロverをそのまま踏襲した演出だったけど、今回はかなり日本のオリジナルカラーが。特に盆がぐるぐるまわるのは新鮮!!端の方の席だと柱が邪魔になるところもあったけど、動きがダイナミックになりますね。オリジナルverは家の断面図のようなセットが家族の閉塞感を表現しているのかなと思っていたけど、盆が回ることでそれぞれを多面的に見えるように感じたり。これはこれで。

歌詞もちょこちょこ変わっていて、全体的に聞き取りやすくなっている。ただ相変わらずJust another dayやIt couldn't be betterなど英語そのままの部分は多くて、しかも違う歌詞を重ねてデュエットしたりするので原曲を知らない人は置いていかれてしまわないか?と思った。私も初見時はついていくので精一杯だったので。個人的に英語そのまま使うなら単語くらいまでじゃない?と思うんですが…(I AM the ONEとか、音の乗りが良いのでそのまま使いたい気持ちはわかるけど強調表現だし、それくらいわかるだろうと観客が信頼されてるならもう全文英語で良くない?と思ってしまう。笑)

なにせ9年前の記憶との照合なので怪しいのですが、これはかなり意味合いが変わるよね?と印象的だった変更点は
・初演ではナタリーの目につくところにゲイブが薬の詰まった鞄を置く→今回はゲイブは関与せずナタリーが勝手に戸棚から薬とる
”Super boy and invisible girl”のダイアナ→ナタリー"I love you as much as I can…"の訳が「愛しているのよ」に。自分の子なのにそうやって無理しないと愛せないのか、という残酷さが出ている部分だったのでこれは前の「精一杯愛している」が好きだな。

あとはダブルキャスト制ではなくメンバー固定のチーム制になったことで、2チームそれぞれのカラーがかなりはっきり出て、演出まで変わっているように見えて面白かった。

キャストについて

チームA

安蘭さんダイアナと新納さんのドクターを観て、そうそう日本のN2Nはこうだったと思い出す安定感。安蘭さんのダイアナは本来のコメディエンヌぶりが活きていて、暗い話でも笑わせてくれるし、この大らかさがきっとダイアナの魅力だったのだろうな〜と感じる。17年の間には朗らかなお母さんをやっていた時もあるだろうし、初対面の人にはそういう風に見えるのかも。

最も期待していた海宝くんのゲイブは素晴らしかった!高音の美しさ!!”I'm Alive”はリプライズも含めて鳥肌が立った。影のある笑顔や鋭い視線もぞくぞくする。きっとご本人も演じていて楽しいのだろうなぁ…。最後に名前を呼ばれた時の「やっと呼んでくれたね」と言いたげな笑顔が穏やかでホラー感が消えたよ。

しかし今回のチームAの一番の特徴はなんといっても岡田ダンでしょう。岡田ダンがこのチームのカラーを作っていると言っても過言ではない。妻の傷の本質を何もわかっていない、家族がすれ違っていることにすら気付いていない独りよがりなダン。「ナタリー、お前の気持ちは問題じゃないんだよ」の響きの身勝手さよ。妻が薬全部捨ててもまじで何も気付いてなさそう。記憶を無くしたダイアナに嘘を教えるのも、オルゴールを壊すのも、彼自身のためなんだ…とはっきり感じる。パンフのインタビューで「同情されないダンにする」と仰っていたけど有言実行されている…!このダンならきっとゲイブが死んだ時にもしっかり寄り添わないどころかダイアナを追い詰めるようなことを言ってそうだよなあ、と謎の説得力が…。演技は納得させられつつ、熱が入ったときに音を大きく外される時があるのがちょっとストレスだった。ただでさえデュエットが聞き取り難しい曲たちなので。。

昆ちゃんのナタリーは可愛くて我が強く、天性のヒロイン感がある。そして橋本ヘンリーは普通に格好良い。この2人の関係性はチームNの方がすんなり入ってきたな。なんというか橋本ヘンリーが悪くはないけど普通の高校生に見えて、なぜそこまでナタリーに執着するのか、あの面倒な子を支えたいと思うほど好きになったポイントがよく分からなくて。昆ちゃんが可愛いし一目惚れなのかな…。バックハグは萌えました。全体的に濃いチームAの中で橋本くんだけ普通でちょっと浮いているように感じたんだけど、ヘンリーだけ外部の救いのポジションだということで浮いているのはいいのかな?

それにしてもチームAは異種格闘技というか、全員がそれぞれの方向を向いて突っ走っている印象で、このバラバラ感もN2Nぽいな…と面白かった。しかしちょっと群像劇っぽく受け取ったので、初見で全て理解するのは難しいかもしれない、と感じた。(初演の時に難しいと感じた理由をなんとなく思い出した)

チームN

チームAと真逆なほどに、ものすごく綺麗にまとまっていると感じたチームN。ダイアナとナタリーを中心とした家族の物語だ、とストンと腑に落ちたのはチームNを先に観たからだと思う(笑)

望海さんのダイアナがめーーーちゃくちゃ良い!!!退団後初だったんですが男役が抜けていない感じが全く無く、すっごく綺麗なお姉さんになっていらっしゃる…。そして男でも女でも精神的に不安定な役がしっくりきすぎるなあ。背景まで見えてくるような繊細な役作りが本当に好きです。

朗らかな安蘭ダイアナとはまた違って「真面目な」ダイアナという印象。元々が真面目で繊細で頑張り屋さんだったんだろうなあ。デキ婚は本当に想定外で、ゲイブを育てることで「納得できた気がした」のに不幸が起きて崩れてしまったんだな…とこれまでの人生を想像できる。ナタリーのことを「perfect plan」と言うのも、「ナタリーが生まれた時に抱くことができなかった」というのも、本当に酷いけど、自分自身を追い詰めてしまう彼女にはどうにもできないんだ。

母親というより「女」を強く感じたダイアナで、それもかなり新鮮だった。ゲイブを喪った時から時間が止まっているような。精神的に疲弊しているけど、肉体は若々しくエネルギーがある。というかダイアナという役に対して勝手にかなりくたびれた主婦のイメージを持っていたけど、周りを見渡しても36-7歳の女性って普通にこれくらい元気で現役感あるよな。(これも時代と共に変わったイメージかもしれないが/あと自分がその年齢に近づいているのもあるw)渡辺ダンとの間には夫婦の倦怠感より普通に男女の愛を感じた。特に同意書にサインする際にダンを見る表情!これでいいのよね?と縋る顔が切なく、ダンを信じているのだ…とたまらない気持ちになる。(同じシーン、安蘭ダイアナは愛というより積み重ねてきた夫婦としての歴史を感じた)

渡辺ダンは岡田ダンと全く違う役作り。自分を殺して妻を支えようと尽くしている、それこそ「同情できる」ダンなのだけど、本質の「わかってなさ」が絶妙で。なんか岡田ダンと渡辺ダンの「わかってなさ」の違いはそのまま日本でもよくある50代の父親・30代の父親に通じる気がする。モラハラではないけど、ひたすら優しくて表面的な対処を繰り返しているだけで問題は解決できないんだよなああ。岡田ダンと違って渡辺ダンはずーっと傷ついていてそれを自覚もしているはずなのに吐き出せていない感じ。セルフケアしてくれ〜!父娘の関係も、高圧的な岡田ダンと反発する昆ナタリーとは違って、渡辺ダンをしょうがないな…と…呆れて見ている屋比久ナタリーという感じ。

屋比久ナタリーと大久保ヘンリーがとっても良かった。屋比久ナタリーは「天才で変人」なのがすごくよく伝わってきたし、歌声のトーンが望海ダイアナと合っていてデュエットが美しい。大久保ヘンリーのちょっと危うい感じも(最近ヴェラキッカで観た印象もあるかも)彼のヤバさと誠実さや包容力のバランスがすごく良かった。ナタリーを好きになるのも納得できた。渡辺ダンと大久保ヘンリーの声の相性も良いので、”Promise”が毎回泣けたなあ。同じことを歌っているようで、ヘンリーはダンとは違うことも伝わってくるのだよね、あそこ。

藤田ドクターも私はツボでした。新納さんのドクター大好きなんだけどやりすぎないギャグが楽しいし、胡散臭さより医師としての誠実さが伝わってきた。

そしてそして、甲斐ゲイブーー!!正直キャスト発表時はゲイブは海宝くんしか目に入っていなかったんだけど(すみません)想像以上にすっっごく良かった!甲斐ゲイブ、歌も良いし、残酷さと美しさと必死さがとても良かった…。彼がダンに語りかけるときの怒りや悲しみ、絶望は全てダイアナから発されていて、彼女が言葉にできないことをゲイブを通して訴えているんだな…と思うような、鏡のようなゲイブだった。

そういえばチームNでイープラス貸切公演を見た時には終演後に舞台挨拶があり、屋比久ちゃんが蝋燭が消せないので練習します…とやりだしたのがすごい可愛かったな(笑)SNSなどを見ていてもどんどん仲良くなる6人を見るのが楽しかったー!元から大好きな人がさらに好きになった!

 

…はあ。6000字語ってしまったがまだまだ語りたい。本当に好きな作品だな…今回改めて気付いた点もたくさんあってまた好きになった。私はトニー賞パフォーマンスを見たときからI am the ONE〜You don't knowの流れが全ミュージカルの中でも上位に入るほど好きで、ゲイブという存在も大好きで、どちらもこの10年しつこいくらい語っているんですが(笑)久しぶりに全編見てやっぱり他の曲もめちゃくちゃ好きだし登場人物全員好きだなあと思いました。なかなか重いけど無限にリピートしたいスルメ舞台。次の再演もお待ちしています。

 

大好きな望海さんが大好きな作品に出てくれて本当に嬉しい

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大久保くんは脳内でヴェラキッカがちらついていた…

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9年前も松下洸平ヘンリーに対して若干怯えながら観てたw

(初演はスリルミーから続けて松下洸平と小西遼生が出演していたから全パターン観に行ったんだよな…松下くん最近まじで売れに売れていてびびる、松下ヘンリーまた観たいよお…)