ディズニープラスで限定配信の「私ときどきレッサーパンダ(原題:Turning Red)」とメイキング「レッサーパンダを抱きしめて」を見た。13歳の少女メイメイがある日起きるとレッサーパンダになっていた!?…というCMを見たときは子供向きのドタバタコメディかなーと思っていたのですが、いやはやすべての元・思春期だった大人&推しのいる人に見てほしい傑作でした…。個人的にはピクサーで1,2を争うくらい好き!!!劇場公開がなかったのが勿体ないよ〜。
トロントに住む少女メイメイがレッサーパンダになってしまったのは先祖代々、一族の女にだけ与えられた特殊能力。(これは生理のメタファーでもある。)思春期に発現し、強い感情を発露した時に巨大なレッサーパンダに変身してしまうが、赤い月の日に行われる一族の儀式によって完全に封印することができるとわかって一安心。しかしその大事な儀式が推しアイドルのトロント公演の日程とかぶってしまったのであった…!(あらすじ概略)こんなに推しが重要なポジションを占める映画だと思っていなかったので笑ってしまった。
ストーリーの大きな軸にメイメイと母親の親子関係がある。メイメイのママはかなり過干渉で、思春期の子どもからすると世界をひっくり返されるような、普通に悪役として配置されてもいいくらいのことをしているのだけど、ママもまた「抑圧されてきた娘」である、ということが示される。いや、だとしてもやってることは完全にアウトなんだけど、ママのママ(メイメイのおばあちゃん)はさらに強そうだったし、メイメイの自己肯定感の強さはママパパがめちゃくちゃ愛情を注いできたことの証左でもあるのだろうし。あと中華系一人っ子の親子関係って多かれ少なかれあんな感じだよな…という妙なリアルさもある。
ママがメイメイの妄想落書きを発見した上にあろうことかそのモデルとなった青年本人に凸する場面は「こ…こんなことがあっていいのか…!?メイメイの最悪の想像シーンじゃないの!?!?」と叫んだし、フィクションだとしても胸が痛すぎて全てのオタクはもし自分だったら…と震えることでしょう。そりゃレッサーパンダにもなっちゃうよ!!
そんな厄介な家庭事情があってもそれを上回るハッピーをくれるのが親友たちと推しだ。メイメイ含めた仲良しガールズ4人組がとっっても良い。メイメイのレッサーパンダ姿もわりとするっと受け入れてくれるし、悩みにも寄り添ってくれるし、悪ふざけのテンションも可愛い。みんな結構キャラが違うけど推しを通じて仲良くなったのかな、それとも仲良しグループ内で誰かが布教したのかな、と想像しちゃう。
そして推し!推しは生きる糧。推しのためなら頑張れる。推しの話をすると早口になり目がキラキラ輝く13歳の少女たちの姿に共感しかない。そして彼女らの推し・4TOWNのリアリティよ。絶対モデルいるでしょと思ったら本当にいるみたいですね!4TOWNのライブ行きたいよ!とにかくこれまでのディズニー/ピクサー映画で感じたことがないほど「じ、自分がいる〜〜」という気持ちになる。それは監督や制作スタッフたちのバックグラウンドにも関係しているとメイキングを見てわかるのだけど。
思春期の抑えきれない衝動や感情の揺れをレッサーパンダで表現することも、それを封印するのではなく共存して生きていくという選択も斬新で良かったな。私はCMから勝手に「レッサーパンダから人間に戻るために奮闘する物語」だと思っていたので、メイメイ本人もわりと早い段階で「レッサーパンダでもやっていけるかも」と言い出したのは意外だった。思春期の子供が通過儀礼を乗り越えて大人になる、というあらすじだけ見るとありふれているようなんだけど、10年前に男性が同じテーマで制作していたら全然違うお話になっている気がする。わりと家族第一主義のディズニーが友情や推しが家族にも勝る心の支えになる話を作ってくれたのもうれしい。
そして美術や細部の演出がとっても良かった!街のポップなカラーもティーン目線という感じで楽しいし、レッサーパンダがもっふもふでかわいい。抱っこしたい。特に赤色の表現が多彩だなと思った。原題がTurning Redなだけあって赤はキーカラーで、レッサーパンダの毛色、思春期の熱、中華圏にとってのおめでたい色、カナダの国旗色…と様々な意味が重なっている。監督が日本アニメがお好きらしく、なんとなく懐かしい表現技法もあちこちに。レッサーパンダ+ガールズが屋根で月を見ながらおしゃべりする様子はトトロを思い出すし、おばあちゃん率いる親族女性ズの変身シーンは完全にセーラームーンで笑った。
そしてそして、本編と同じくらい感動したのがメイキングの「レッサーパンダを抱きしめて」です。もうドキュメンタリー映画としてこれを放映してほしいよ…Turning Redはディズニー/ピクサーで初めて主要なスタッフリーダーがほぼ女性、というチームで作られた映画らしく、彼女たちのルーツや現在の暮らしにも焦点を当てつつ作品を解説してくれる。思春期時代の思い出。女友達にどれだけ助けられてきたか。好きなアイドルや憧れの先輩を見ているだけで救われた気持ち。移民2世としてのアイデンティティ。母である人たちもいる。作品の制作中に妊娠している人、同性婚で子どもを育て始めた人、思春期の子供を育てている人。娘としての視点も母としての視点も入っているんだなあ。
そして女性が(子育てしている人もそうでない人も)チームのリーダーとなってゴリゴリ働く様子があまりに自然に、たくさん紹介されていて、とっっても勇気づけられた。もちろんそのポジションに相応しい物凄く優秀でたくさん努力して実績を残してきた人たちなのだけど…ディズニーですら女性のリーダーはまだ珍しく、こんなチームは初めてだという。今の若い女の子たちが、こういう格好良い女性たちがいることを知ってくれたらうれしいなと思う。お互いへのリスペクトが繰り返し語られているのもとても良かった。映画本編もドキュメンタリーも最強のシスターフッドを見せていただいたよ〜これから繰り返し見ると思う!大好きな女たちにおすすめしまくるぞ。