旧作を超えられるか? ウエスト・サイド・ストーリー

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「スピルバーグ監督がWSSをリメイク」というニュースを見た時ほとんどの人と同じく「なんで今更????」と思ったものですが、あの世紀の大傑作映画をわざわざリメイクするからにはよほど熱が入っているのだろう、劇場で見ておこう…とも思ったのでした。正解。

クラシカルな画面作り

時代設定なども変えずリメイクということで、バーーンと空撮・CGいっぱいで目新しい感じにするのかしらと想像していたら、むしろ2020年代のミュージカル映画とは思えないほどクラシカルな作りで、カメラワークだけでこんなに多彩な画面が作れるんだなあ、映画が上手いなあ(当たり前)と思いました。ダンスの入りタイミングとか長尺カメラの場面とか、旧作をそのまま生かしている部分も多々あり、スピルバーグ監督が旧作をとても愛しているのだなーとリスペクトも感じた。

良い意味でスケールが大き過ぎないというか、ほんの数ブロック間のエリアで起きたたった2日間の出来事だということ、居場所のない彼らのどこにも行けない閉塞感が伝わってくる画面作りだなあと。

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プエルトリコ贔屓を感じる演出

単純に私の加齢のためかもしれないけれど、悪いのは大人の作った社会であって、本来は未来ある若者が巻き込まれた悲劇である、ということが強調されている気がした。WSSって血の気の多いヤンキー同士の縄張り争いの話というイメージが強かったのだけど、当時のアメリカの様子がわかる台詞が多いのと、あと自分がインザハイツを観たことでプエルトリコ系移民への解像度がちょっと上がっているのもあるかも。

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旧作では非難されていた(白人俳優に黒塗りさせたり、など)プエルトリコ系へのリスペクトが増し増しになっていたのも良かったですね。スペイン語の比率がとても高く、移民同士の会話でふと出てくるスペイン語や、トニーがマリアへの愛の言葉をスペイン語で学ぼうとしているところなど自然な形で混ぜられていて良かった。本国ではスペイン語部分は字幕ないらしいので、日本で見るより下手したら意味がわからないのでは?と思うけど、英語話者はみんなスペイン語もちょっとはわかるものなのか?もしくはその「近いのにわからない」感覚がリアルで効果的になるのかな。

さらに今回の映画で初めて感じたのが、「シャークス(プエルトリコ系移民)の方がジェッツ(ポーランド系白人移民)より未来があり、パワーがある」ということ。トニーとマリアの会話にもそういうところがあったけど。同じように貧しく、優遇されていない底辺同士のように見えて、プエルトリコ移民はアメリカでのし上がる夢を持って渡ってきた人が多くて、なにより支え合うファミリーがいる。ポーランド系移民の方がアメリカではもうポジションを上げられない、という絶望感が強くて、白人・英語話者ではないプエルトリコ系移民に鬱憤をぶつけている。シャークスのメンバーは仕事をしているのに対しジェッツは身よりもあやふやそうな子どもたちで構成されていること、攻撃はいつもジェッツからのちょっかいに見えること…プエルトリコには「アメリカ」という曲がありジェッツは「ジ・オフィサー・クロプキ」なのがまた。ベルナルドには守るべき妹マリアやアニータがいるけど、リフは失うものがない。やけっぱちなのだよなあ。。

リメイク版で良かった/微妙だった新演出

まずはなんといってもオリジナルキャラクターのバレンティーナ。61年に旧作でアニータを演じアカデミー賞も受賞したリタ・モレノ(90歳!!)に「プエルトリコ系でありながら白人のドクと結婚した未亡人」という役を当てているのが完璧。旧作でも出てきたドクの店の使い方は変わらず、どちらのチームからも頼りにされる納得感のある設定。そして彼女にSomewhereを歌わせるというのも1億点!!!!トニーとマリアのデュエットよりテーマに合っている気がする。そして60年経っても「私たちのための平和な場所がどこかにあるはず」という祈りに近いメッセージが響く世界であることの哀しさよ。新旧アニータの会話もよかったですね。

トニーとマリアが地下鉄に乗ってデートに行く、というのも良かった。前述したスペイン語の練習しかり、教会のような場所で誓いの言葉を交わすというのも画面として美しい。2人の出会いとなるダンスパーティの抜き方も良かったなー。一目惚れの演出が素敵。

アメリカが街中の映像なのも良かった!故郷に見切りをつけて前を見ている女たちとなんだかんだで未練がましい男たち、インザハイツでも見たぞ…(笑)私はアメリカで夢を叶えるのよ、帰りたいなら1人で帰ればと言い放つアニータがラストでは「こんなところ住みたくて住んでるんじゃない、私はプエルトリコ人だ」と言い捨てるのに泣ける。ていうか本当に本当にアニータが良い女なので私はジェッツが許せない。

微妙だなと思ったのは新キャラ・エニーボディズ。ジェッツに入りたがっているトランス女性という設定が全然活かされていなかったし、申し訳程度にラスト男扱いを受けるというだけで、何のために出したのかよくわからなかった。というか彼女が店を出てからアニータのレイプ未遂があったことでより嫌悪感が…。あの場面でジェッツの女たちが涙ながらに止めていたことは良かった。ていうか女たちは最初から別にそんなにいがみあってないんだよ、マリアの職場にも白人女性がいたけど仲悪く無さそうだったしちゃんと割り切って生きてるのよ。馬鹿なプライドに縋って暴力沙汰起こしてるの男だけだよ!!ばか!!

役者たち

WSSの好きなところ、9割くらいはアニータ。今回もアニータが最高に良い!!!踊り狂うアニータを見るのが楽しすぎる。ベルナルドも良い!!!ベルナルドがくるくるくるくる回るアニータを0.1秒ずれずに抱き止めるダンスシーンを永遠に見ていたい。最高のカップル。2人のマンボとアメリカだけでも大画面で見る価値があった。ベルナルド役はビリー・エリオットのBW版初演ビリーの1人なんですよね。トニー賞を獲ってた3人組の1人がもうこんな大人に…と感慨深い。

リフの役者さんもとっっても良かった〜!彼は旧作や舞台版と一番解釈が変わったキャラクターじゃないかな。イキったヤンキーというより、繊細でただただ可哀想な子どもに見えた。彼によってWSSは行き場のない若者たちの物語だということを思い出せた。というか全体的に男性陣(特にジェッツ)が幼く見えたな。

マリアは高音が美しく、熱にうかされたぽーっとした感じが合ってはいるが必要以上に幼い気も?相変わらず何も共感できないお子様で、ベルナルドを失ったアニータに人を愛したことがあるならわかるよね?と語りかけるところはイライラする…一目惚れして数日で同レベルに愛を語るな…。それなのに憎いトニーと逃げるための手助けをしてあげるアニータは本当に素晴らしい人間よ。それをジェッツは(憎)嘘くらい吐くよ!仕方ないよ!!

トニーはわりと王子様感のあるキャラクターというイメージだったのですが(ジャニーズやトップ男役が演じていたりもするし)今回はぬぼーっとしてるのにキレると手がつけられないやばい前科者という役作り。彼もただの夢みがちな子どもでマリアとお似合いだった。が。演じるアンセル・エルゴートの性的暴行疑惑の情報が頭をちらつくし、マリアとの身長差もなんか犯罪感があるし、演技や歌ダンスという部分で脇を固める役者たちには見劣りするので余計に「この人じゃなくていいのに…」と思ってしまったな。彼への抗議の意味も込めてWSSを劇場で見ないと決めている人も多いと思うので、残念。

地味にこの解釈が面白いなーと思ったのはチノ。新鮮だったし登場時からの印象の変化が自然だった。ああいうタイプの人が手を汚してしまう、というのも物語の哀しさを際立たせる。

旧作を超えるか?

個人的にWSSのストーリーは全然好きじゃないんだけど(そもそもロミジュリが苦手)旧作映画はもちろん幼少期から何度も見ているし、舞台も四季版・来日版・宝塚版と何故か結構見ている…コンサートでもよく聴くし、これは『往年の名作』枠でもう好きとか嫌いという感じでもないよなーと思っている。が、映画が終わった後に周囲の人が「マリアの気持ち全然わかんなかった」と言っているのを聞いて、そりゃそうだよね〜〜!!!!と思ったし、WSSを一切知らない人が初めてこの映画を見たときに旧作のテーマって伝わるのかな?と疑問に感じたりもしました。旧作ありきで見られる前提になっているような気も…。この映画が完全にWSS初見だという人の感想を読みたいな。

主にプエルトリコの描き方と自分の加齢もあってWSSの世界観はより伝わったし、旧作にない良さ(特に役者面では今回の解釈の方が好き!)があるけど、超える超えないとか言えないくらい元が大傑作なんだよなあとしみじみ感じたね…。