僕こそ音楽
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Mozart!
どうしても逃したくなかった井上王子のファイナルM!
幸運が重なり前々楽に一度だけ観ることができた。ほ、本当に無理かと思ってた、よかった…。
ヴォルフガング:井上芳雄
コンスタンツェ:ソニン
ヴァルトシュテッテン男爵夫人:春野寿美礼
の組み合わせ。ソニンちゃんのコンスもすごく見たかったので嬉しい。
M!を観るのは韓国のウンテヴォルフぶりで、演出で所々あれ?東宝版こんなだっけ?と混乱するところもあったりして、井上ヴォルフのファイナルを見守ろうという気負いと別に、ある意味新鮮に作品を楽しめたりもした。
井上ヴォルフは本当に集大成といった感じ。僕こそ音楽の幸せ!!!感が凄かった。
井上王子の僕こそ音楽は何十回と聴いてきてるけど、やっぱり舞台の上でヴォルフとして歌っているのが一番良い。キラキラしてた。
そして影を逃れての気迫。影を逃れては全てのミュージカル中でトップ3に入るくらい大好きな場面なので感無量。お前は生きるその子のために、という歌詞と、上段から全員が見つめるアマデと、光の外側にいるヴォルフという構図と、無表情でヴォルフの腕にペンを突き立て血で楽譜をかきなぐるアマデの視覚的な静止図が、もう、大好き。
今回とても思ったのは、井上ヴォルフは優しくなった。影を逃れてでも、アマデに対する恐怖よりは苦悩、自分の人生を俯瞰で見た憐憫のようなものを感じた。
コンスに対しても包容力がある。いっくんヴォルフは恋愛面ではコンスと同レベルの幼さで、渦の中で相手も自分も見失っちゃう若さがあるけど、井上ヴォルフは常にコンスを愛していて大事な存在だとわかっているのに、アマデを制御しきれずに人間関係を次々に手放してしまう印象を受けた。
でもけしてピュアな感じではなくて、「乾杯?それともキス?」からの蝋燭吹き消して置いてからのお姫様抱っこ、ヴォルフガングお前どこでそんなこと覚えてきたんだよ……!!!と机を叩きたくなる罪深さ。。
なんでもメタに捉えてしまうのはよくないけど、モーツァルトが死んだのと同じ年齢の井上王子が演じる、大人なヴォルフを見せてもらったなと感じた。12年間M!を支えてくれてありがとうという気持ち。
ソニンちゃんのコンスタンツェは、もしかしたらこれまで見てきたコンスで一番好きかもしれない。
並の男じゃないのピュアさと、ダンスはやめられないのパワフルさに違和感がない。あんたみたいな男はじめて、に処女性を感じたのは初めてだった。今までの男達の中で特別、でなくて、初めて心を動かした人、という感じ。
ソニンコンスはダンスやお酒で本当に気を紛らわせているのではなく、芸術家の夫にインスピレーションを与えられないことから逃避したい(けどできない)んだなあと。墓場のシーンも含めて最後までヴォルフを愛しているコンスだなと思った。
井上ヴォルフの役作りも相まって、激しい言葉で言い争っている場面でも愛し合っているのが伝わってくる夫婦で、とても好みだった。
初っ端、覚悟はしていたものの花總ナンネールが少女過ぎて目を疑う…お花様本当に化け物か……私はプリンセスで弟はプリンスよ、が本当にプリンセスに見えるからね!可憐で気品に満ちている、こわい。
宝塚時代から思っていたことだけど、お花様ってスチール写真とかで見たらそこまで超絶美人というわけではない(いや、お綺麗なんだけど、檀ちゃんみたいに美貌で国を傾けられそうというよりは守ってあげたい儚げな路線)のに舞台の上での光輝き方とか存在感がすごいよね、スターオーラというやつ。
お花様は元々儚げな美貌の持ち主でいらっしゃるので、前半の可憐で溌剌とした笑顔から段々と後半の翳りを帯びた表情になっていく過程がとても良い。夫に対する「ご自分で用意なさってください」も控えめさと自己主張のバランスが絶妙。東宝にきてから一番のハマり役だと思う。
男爵夫人、タータン夫人が好きすぎてちょっと心配していたんだけど、オサ夫人でもしっかり号泣してしまった…星から降る金、いつ聴いても自分に響くけど今は特に。
愛とは解き放つことよ、の方でなく、夜空の星から降る金を探しに知らない国へ、なりたいものになるため星からの金を求めひとり旅に出るのよ、の方でいつも涙腺崩壊する。
レオポルドもヴォルフも割と長期に渡ってコロレドの手の中でもがいているのに、ヴァルトシュテッテン男爵夫人はさらっと「コロレドの許可は取り付けました」とか言えてしまうのだよね、やはり只者ではない。
ここはウィーン、背中を突かれそうになったタイミングでゆったり振り向いて笑顔で手を差し伸べてキスを待つオサ夫人、腹黒いオーラがすごい。背中にはナイフ突き立て手にはキスをする。
実はヴァルトシュテッテン男爵夫人って唯一、常にアマデ側に立つ役なんだな。星から降る金が神曲過ぎて聖母のようなイメージを持ってしまうけど、ヴォルフが「愛情でもなく成功でもない目には見えない大切ななにか(幸福)」を失うように誘導してきたのは夫人だよね。
星から降る金の、愛しているなら解き放ちなさい、というメッセージが、後半では大人になったら1人で歩いて行きなさい、ひいては才能を生かすために人間らしい関係性は捨てていきなさいという響きに変わる。夫人にはヴォルフの中にアマデが見えているのかもなあ。
吉野シカネーダーは終始最高。シカネーダーを完璧に理解して客席を掴んでる。あの漫画みたいな飛び跳ね方すごい。井上ヴォルフとの絡みは安定感あるな。
しかしキメ顔する度にジャムの呪いが!!笑
市村さんの舞台復帰を見届けられたのもよかった。カテコではわざと躓いてみせるお茶目さも健在。
絞り出すような歌声はレオポルドの苦悩を滲ませていてよかったけど、前回公演に比べて最初から数段階老けてしまっている印象。ザザはいけるのかな?期待。
祐さま、最近の不調からかなりお声が戻ってきていて安心。やっぱり美声なんだよねえ。ただ周囲キャストの調子が良すぎるからか、伸びが足りないように思えてしまった。あと最近ワイルド系のコロレドを続けて見ていたから、直立不動で朗々と歌い上げられることに違和感が…。
千秋楽近くということで、カテコ後に幕前に井上ヴォルフと日浦アマデが出てきてご挨拶。
アマデ「すっきやねん!」「ほんまおおきに!」で井上王子がおんぶして「また来てな~!」ではけ。2人ともぎゃんわいいかった!ヴォルフとアマデの絡みが大好きです。
改めて思ったけれど、私はM!の曲と場面とアマデの存在設定がとにかく好きなんだなあ。
というのも、特に誰かに共感できるわけでもなく、ヴォルフの自由だ!→縛られてる…→自由だ!の繰り返しやコロレドとの確執がなんとなく間延びして感じてしまうから。
その場面場面は大好きで歌や演出に感動するのだけど、一本のドラマとしてまだ理解できていない気がする。
父姉のザルツブルグに残れ、家族と共に在れ、の主張がそれぞれどういう理由からなのかも、私の脳内で処理できていないんだな。子離れできてない親と親離れできてない子どもの確執というイメージ。
星から降る金の時と、パリから戻った後と、残酷な人生リプライズの時と…こんなに何回も観てるのにヴォルフの人生が頭に入ってきていないってことかな。
天才の苦悩物はどうしても感情移入できず理解が薄くなってしまう…と思いつつ、特番インタビューで「ラストの影を逃れては役を離れて役者個人として歌えと演出家から言われている」と聞いていたので、気になって全員の顔を見ていた。
普通の人間にとっての「自分の影」は何なのか、井上王子の言う「人は誰でも運命から逃れらない時がくる」というのはどんな意味なのか、そういう物語の外側のことを考えたりした。
井上王子の12年間の集大成、日本のモーツァルト!の一区切りが終わる時に立ち会えて幸せでした。これからのM!も楽しみ!