宝塚で見たいものすべてが詰まったアナスタシア

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アナスタシア宝塚大劇場千秋楽公演のライブ中継を映画館で観てきました。3月の雪組ワンスのチケットを取っていたもののコロナで公演中止になってしまったので、リアルタイムではなんと今年初の宝塚…。アナスタシアは原作のアニメ映画が好きでBWで制作発表があった時から楽しみにしており、オーブ公演も来日公演も行くつもりでいた(がコロナと体調不良で行けず…)ので宝塚初演はどうしても観たかった。観られてよかったです。

夢とときめき、これぞ宝塚!な潤色演出

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ポスターが発表されたとき「種村有菜の扉絵みたい」と呟いたのだけど、まさにザ・少女漫画の世界。私が宝塚に求めるものすべてが詰まっている作品だなと思いました。初めて宝塚を観る人に自信を持っておすすめしたい作品。男役は役の生まれ育ちは関係なくとにかく王子様で、娘役はかわいくて強くて賢くて、衣装が綺麗で、コミカルとシリアスの比率がちょうどよくて、ときめくセリフと場面がたくさんあって、ハッピーエンド。輸入物なので脚本も曲も良いし、フィナーレはしっかり夢夢しい。私が観たかったのはこれです。こういうのが観たくて宝塚に通っています。ありがとうありがとう。

BW版を観ていないので(サントラだけ聴いて予習した)どれくらい宝塚ナイズされているのかわからないのだけど、元作品はもう少し作品の暗い部分、革命の描写などが多いのではないかと予想している。あとエリザベートなどと同様に、タイトルロールである主役をアナスタシア→ディミトリにするにあたっての比重調整はあるだろうな。(Journey to the pastにディミトリパートが入っているのとか、おそらく宝塚用の演出だよね?)そこも含めて、「宝塚でこの作品をやるにあたってはこれくらいの夢夢しさがベストだろう」という気持ち。処刑された王族の生き残りというテーマなんだからもっと暗くなってもおかしくないのだが、ここまでおとぎ話のような仕上がりにできるのが子ども向けアニメ映画→宝塚ということだな…。

そして私はアナスタシアという作品の根底に流れる暗さ、重さ、寒さみたいなもの(アニメ映画も、明るくコミカルなのになんだか暗いのだよね。アメリカ人が思うロシアのイメージなのかな)が大好きなので、元演出版もとても観たい。亡命貴族たちがロシアを後にする際に歌うStay,I pray youはまさにそういう重さが滲み出たシーンで大興奮しましたね。パリでのLand of Yesterdayやリリーのキャラからも、ロシアの亡命貴族の描き方はもっと悲哀や皮肉があるんじゃないかなと想像する。バレエを観劇しながら四者が歌うQuartet at the Balletも舞台上のオデット・王子・白鳥・ロットバルドが四役と綺麗にハマっていて好きな演出だったなあ。やっぱり元バージョンも観たい…。

宝塚初演キャストについて

まずはタイトルロールを演じた星風まどかちゃん、上手だった〜!勝ち気で真っ直ぐで頑張り屋さんで、ご本人とキャラも非常にマッチしているのではと思う。ころころ変わる表情がかわいいし、掃除婦をしていても滲み出る育ちの良さ、記憶を取り戻した後のお姫様感も説得力がある。最後にはドレスを着ている時の背中の美しさに惚れ惚れしたよ…。可愛いだけでなく、グレブとの対峙ではロマノフの生き残りとしての誇りも感じられる演技が良かった。ソロもきっちり歌い上げていて、アナスタシア役の型を作ったなー。千秋楽ではセリフを噛んでしまう場面が多くて意外だったのだけど(笑)頑張ってたな。皇太后やグレブ、自分自身からも繰り返し問いかけられる「あなたは誰なの」「君は誰だ」「私は誰」というのはそのまま作品のテーマなのだろうな。

真風涼帆さんのディミトリはとにかくずるいですね。かなり泥臭い育ちの小悪党のはずなのだけど、にくめない。だって格好良くて、意地悪を言っていてもここぞという時には優しくて、なんだかんだ紳士なんだもの。いやー、これぞ宝塚のトップ男役というキャラクターになっていて宝塚ナイズの上手さに惚れ惚れしますわ。「あんたが良い男じゃなかったら警察に突き出してる」的なセリフがあったけどまさにそれよ。この顔と愛嬌ですべて許されてきたんだろうな〜私もゆるすけど〜!?という説得力がありましたマカゼ。A Rumor〜で「内緒」という歌詞に合わせてシーッてするところイケメンすぎてときめいた。あと2幕で「皇女様…」って跪いてから→正装でアーニャをエスコートして劇場に入っていくところ、ときめき致死量。アレクサンドル3世橋で「俺を見つけても手を振るなよ」って言う台詞からラストの流れとか、本当に本当に少女漫画じゃない???好きすぎる。そもそもマカゼの顔が好きなんだよ私は。

2人と旅をするヴラド・ポポフ役は桜木みなとさん。ずんちゃん、予想の100倍よかった〜!こういう原作では太っちょヒゲおじさんみたいな役を宝塚で演じるのは難しいのに、良い感じに肩の力が抜けたイケおじになっていた。ディミトリよりは文化層、だけど小悪党ではあって、ダイヤを盗まれてもリリーが結局許しちゃうのがわかる可愛げもある。
そしてリリーの和希そらさん、2幕はほぼ出ずっぱり、Land of Yesterdayの歌とダンスで息切れしないのすごいなあ。ソラカズキ〜!「強くてかっこいい良い女」というだけでなく、ロシアを捨てパリで夜な夜な過去に逃避する、ボリシェヴィキから見れば唾棄すべき貴族社会の残り香の塊のような女性だというのが伝わる良い役作りだった。久々に男役が女役を演じる意義がある役だなーと。(が、こういう役を娘役ができるようになればもっといいなーとも思う。)

ロシアの亡命貴族役でいうと、凛城きらさん演じるイポリトフ伯爵!素晴らしかった〜!!!Stay,I pray youのソロで「この人だれ!?専科!?」と思って幕間になってすぐに調べたらりんきらちゃんでびっくり。歌部分以外の台詞はたった一言なのに存在感がすごい。列車内のシーンはとても明るくコミカルなのにあの銃声で一気に肝が冷えて伯爵の人生まで想像してしまう。厚みのある役作りだなあ。

二番手、芹香斗亜さんのグレブは正直惜しいなと感じる。かなりおいしい役だと思うのだけど、全体的にキキちゃんの人の良さが出過ぎてしまっていて悪役にも横恋慕キャラにも振り切れていないような。悪役メイクが浮いていたし、常に悲しそうな表情なのも悲哀の中間管理職という感じ。ただこれは脚本演出の問題もあるなと感じた。というのも、グレブは本来は「父と息子」というテーマが一番濃いキャラなのだろうに、そこの説明がかなり端折られていて、宝塚らしい「三角関係の当て馬役」面を無理に強めている感じがするので。(そしてその割にグレブとアーニャの関係性が深まるシーンがない)The Neva Flowsはとても良い曲だしパリでアナスタシアと対峙する場面は2人とも迫真の演技なのだけど、「父が自殺した」理由自体がなんかぼんやりしていて気になってしまった。父は警備隊だったのに主君である皇族を殺したことを悔いていたのか?それともアナスタシアを故意に見逃したことを恥じたのか?グレブはアナスタシアが本物だと思っていたのか?父の死の理由を何だと信じていて、息子として全うしようと思っていたのか?それでもアナスタシアを殺せなかった理由は恋?人間としての良心?(キキちゃんはとにかく人が良さそうで、後者に見えたな…)疑問がいっぱい。「何が真実かはわからない」のがこの作品のロマンではあるものの、グレブにとっての真実が何なのかは知りたかったな。ボリシェヴィキとしての思想を語る台詞もかなりあるのに、演技からは過激な革命思想や貴族社会への苛烈な憎しみはあまり見えなかった。スカーレットピンパーネルでいうところのショーブランのような役だと感じたので、無意識にもっとギラギラしたものを求めてしまっているのかな…。「ロマノフは生まれながらに全てを持っていたが、人民には何も与えなかった」(うろ覚え)とか、すっっごい台詞として好きなんですが…。ただアーニャに恋してるっぽいところとかアドリブシーンとか、可愛げが出るところはすごく良くてキャラクター的には萌えるし好きでした。オリジナル版の映像を見る限りでは結構おじさんが演じていてこれでアーニャに恋してるってかなりロリコンでは…と思ったので、宝塚だと横恋慕も爽やかになって良いな(笑)フィナーレでは晴れやかにニコニコされていて、やっぱりキキちゃんはこういう屈託のない笑顔が似合うよな〜とも思いました。

そしてそして、影の主役ともいえる寿つかささんのマリア皇太后!!!すっしぃがいるから宙組がやることになったのでは??と思うくらいのハマり役。さすがです。我々が断片的な歴史エピソードから想像するマリアそのものだったな。皇族としてのプライドの高さ、晩年は周りも扱いづらそうだけど道徳心はあること、家族を非常に大事にしていたこととか、舞台上では一言しか言葉を交わさなかったけど皇后とは不仲だったこと、孫のアーニャを溺愛しつつ盲信はしていないこと。アーニャを試すやりとりから孫だと認めるまで、全てが納得できる役作り。皇太后の役が全体を引き締めていた。

 

フィナーレとご挨拶

久々に2幕物のフィナーレを堪能できたのも楽しかった!娘役群舞のお衣装とても好きー!!男役群舞の曲にカスタネットが入っていてロシア調なのも好き!デュエダンはディミトリとアーニャそのままな感じで鼻をちょんと触るところとかときめく!!!
宙組さんはコーラスが上手いので劇中では薄いとは思わなかったけど、フィナーレではさすがに組子が少ないことに気付き少し寂しくもなりましたが。早く全員揃って演じられる日がくるといいな。

専科行きが発表されているまどかちゃんのご挨拶にはぐっときました。みんなそこへのコメントを期待していたと思うのだけど、あまりに過不足なく完璧なご挨拶で涙も見せない、まさにお姫様の態度なものだから、むしろこちらが気持ちの行き場がないよ…。今日一番拍手が止まらない場面だったな。

自分でも意外なことに、めちゃくちゃ泣いたのは最後の最後、この愛よ永遠に(フォーエバー宝塚)でした。コロナ後初めての宝塚観劇だったのもあって、しみじみと「ああ、本当に永遠に存在してほしいな」と思った…。宝塚はいつの世も多くの人の心を救ってきたのだろうなと思います。フォーエバー宝塚。

なんかエモくなってしまったけど、総合して本当に楽しい観劇体験でした。ときめきの詰まった素敵な作品をありがとう〜。東京公演も無事に千秋楽まで走り抜けられますように!