最高のショーと残念な脚本 グレイテスト・ショーマン

グレイテスト・ショーマン見てきました。

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舞台原作でないオリジナルミュージカル映画、作曲はエヴァン・ハンセンコンビ、ショービジネスがテーマということで、期待と不安が入り混じった状態で見てきたのだけど、映像としてもミュージカルとしてもとても完成度の高い作品になっていたと思う。

よく音楽が同チームとして比較されているララランドは(比較するものでも無いと思うけど)「映画としては良いと思うけど、これはミュージカルではないな。」という感想を持ったのだけど(曲の入れ方など、私の中ではあれは「レビュー」の方がしっくりきた。)そういう意味ではグレイテスト・ショーマンは完全なるミュージカルであり、映画オリジナルでこういった作品が生まれているのはとても嬉しいことだなと思いました。もっとこういう作品が増えてほしい。

楽曲もパフォーマンスも、バラエティ豊かで本当に良かった。その場面と心情にぴったり合った歌詞とメロディが用意され、視覚的な演出と振付とカメラワークが曲を何倍も魅力的なものに盛り上げていた。しかも舞台ではできない、映像だからこそできる演出も多用されていて、これぞミュージカル映画の醍醐味!と思いました。

特に振付!デュエットダンスもアンサンブルの群舞もすごく良かった。早送りの使い方も映像ならでは、かつわざとらしすぎない。
幕開けの「これから始まるぞ!」という期待を最大限に盛り上げるタップは最高にわくわくしたし、バーナムとフィリップが交渉するバーのダンスはリズムとステップ、バーテンダーの手の動きがピタッと合っているのに興奮したし、空中ブランコのラブシーンはうっとりした。(動きもロマンチックだし、二人が同時に同じ高さにいられないのが身分差を暗示しているようですごく良かった。)

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バーナム夫妻が貧乏な新婚時代に屋上でシーツの合間で踊る幸せなデュエットダンスが、裕福になった後に孤独な妻が一人で踊るシルエットから連想されるようになっていたり、曲だけでなく視覚的なリプライズ効果がとても活きていたと思う。
また幕開け、ラスト、This is meと全体的にサーカス内のコーラス&群舞が多いのにどれも全く違った演出とカメラワークで飽きさせないのもすごい。

役者それぞれのパフォーマンスも素晴らしく、特にザック・エフロンにはとても感動した。理想のザックともいうべき役柄、かつ歌とダンスの成長が著しい!この映画を見た周囲の人がみんなザックザックと騒いでいるのがわかる…HSMを見直したくなったよ。

そしてオスカーのパフォーマンスでも圧巻だったThis is meはやはり最高。


 『グレイテスト・ショーマン』「This Is Me」ビハインド・ストーリー映像

映画鑑賞後にこちらの映像を見て号泣してしまった。この「ナマ」感、メーキャップもしていない役者が歌いながらどんどん気分が乗ってきて感極まっている様子、映画の中の場面より好きかもしれない。本当に良い曲だ。
Born this way的な曲はこういったテーマのミュージカルには頻出するけど、毎回新鮮に胸を打つ。普遍的なテーマであるからこそ、歌う人の気持ちが心を揺さぶってくる。
キアラはトニー賞助演女優賞ノミネート経験があるとのことだけど、テナルディエ夫人も演じてたんですね。納得。

さて、ここまでミュージカルとしてのグレイテスト・ショーマンを絶賛した一方で、脚本にはかなりの粗が目立ったと思います。

この作品は元々賛否が両極端に別れていて、批判の的となっているのは「マイノリティをテーマの主軸にしておきながら、マイノリティ側の描写が少なすぎる」という点。
この指摘自体は、個人的には気にならなかった。今回の主人公はあくまでも興行主バーナムであり、それぞれのマイノリティのドラマを掘り下げるには尺も足りない。
それに、何らかのハンデを負ったマイノリティが苦悩しつつ熱意と才能によって成功する、というストーリーはあらゆる作品ですでに描かれているわけだし、「このひとたちのスピンオフも見たいなー」とは思うものの、「マイノリティたち」という雑なまとめ方は仕方ないのかなと思う。

問題はざっくり「マイノリティ」とまとめられた彼らがあまりにも都合が良く存在していたことではないかと思う。というか、サーカスの団員だけに限らず、妻や家族、オペラ歌手、主人公以外の全員がとてつもなく主人公にとって都合がよかった。

マイノリティ達には前述したThis is meという素晴らしい楽曲とパフォーマンスシーンがありながら、あれはバーナム自身には何の変化ももたらさない。彼らは「私たちはありのままでいい」ということに自分達で気付くだけで、それをバーナムには伝えないし、「だからこんな理不尽な興行主の元からは出て行こう」ともならない。謎すぎる。
同じご都合主義のストーリーなら団員があのままぶちぎれてボイコット→バーナムが反省して説得する、の流れにしてもよかったのでは…?
そもそも団員達はバーナムに反発したことが無いし、バーナムも団員達に対して反省した描写が一切ない。「お金なくなったし妻も出て行っちゃったよー><」とバーでひとり落ち込んでいたら勝手にみんなが慰めに来てくれる。いやいやいや。せめて団員にこれまでのことを謝って「もう一度一緒に頑張りたい、力を貸してくれ」くらい言えないのか…。その後の酒場でのパフォーマンスもとても良かったけど、バーナムは「俺は人生の本来の目的を思い出したぜ!」と言っているだけで、「みんなのこと考えてなくてごめん」的な要素がない…。

オペラ歌手ジェニー・リンドの描き方は更に酷いと思う。
バーナムに対して関係を迫り断られたら逆ギレ、舞台の上でキスしてその後の公演をブッチって、歌手としてのプロ意識が無さすぎるでしょ!!バーナムが見出した小娘とかならまだしも、すでに世界で大成功してギャラは寄付しているという慈善家がそんなことするか?!
しかも実在の人物だというので調べてみたら、不倫関係も突然のブッチも完全にフィクション。バーナムが「不倫を断ったら逆ギレされて興行が失敗し負債を抱えた」という展開にするためだけの都合の良いキャラクター改竄。いや、これはちょっとした名誉毀損だよ…。(あと突っ込むのは野暮だけどオペラ歌手設定なのに歌っているのはめちゃくちゃポップス…笑)

妻のチャリティも、何故あそこまで自分勝手な男性を盲信できるのか謎。幼少期の曲と結婚後のデュエットでラブラブアピールをした以外、妻や子供を大事にしていますという描写は特になかったように思うのだけど。文通してただけで駆け落ちするくらい好きになっちゃうのも、貧乏に耐えてくれるのもまあ良いとして、突然の思いつきで家族を振り回し続ける夫を「あなたがどんな無茶をしても、間違っていても信じて応援する」と言って支えてくれる妻って…ドリームすぎるでしょ。バーナムは妻が困っている時に助けてくれたことあるのかな?

「出演者を商品としか思っていないあなたとはビジネスできない」「あなたはあなた自身とショー以外を愛していない、都合の良い駒としか思っていない」と言われて目が覚めるというストーリーのはずなのに、この映画自体が「主人公以外を都合の良いコマにしている」感が半端ない。
とにかくバーナム(と、一応ちょっとした苦悩が描かれるフィリップ)以外の感情や行動が全て都合よく描かれすぎていて、「人類礼賛ではなく白人男性礼賛映画」と批判されてしまうのは致し方ない。
まあ時代背景的にそういう価値観が普通だったろうから、ある程度は仕方ないと思うのだけど、描写が全て中途半端なんだよね。バーナムをクズに描きたいのか、善人に描きたいのかわからない…。クズが開眼する話ならもっと徹底的にどん底に突き落として反省させてくれ〜。

どの曲のパフォーマンスも本当に良かったけど、「あと一曲、団員がバーナムと喧嘩したり反発する曲があればな」とか「バーナムが心から反省するソロとかあればな」と思ってしまった。
ミュージカルって一曲歌えば心情がガラッと変わっていても許されるんだからさ、そこをもう少しだけ丁寧に描いていればここまでご都合主義には見えなかったと思うんだ…。

f:id:oukakreuz:20180308173019j:plain見てからずっと「あの場面良かったなあ」と「主人公がクズすぎるでしょ(脚本が悪い)」の感想が脳内を行き来する珍しい映画体験でした。2幕物にしたら色々と回収できると思うんだけどなー。(まだ言う)
曲は本当に良かったので、サントラ聴き倒します。

 

グレイテスト・ショーマン(オリジナル・サウンドトラック)

グレイテスト・ショーマン(オリジナル・サウンドトラック)

 
グレイテスト・ショーマン (字幕版)
 

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ミュージカルとしてはGS、映画としてはララランドの方がプロットがしっかりしていて好きだったかな…。