ロマンスというより人生史 NTLiveジェーン・エア

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ナショナル・シアター・ライブのジェーンエアを鑑賞したので感想。NTLは結構観ているのに時間が経ってから感想を書いておけば良かった!と思うことが多いのでまとまらなくてもメモしておきます。

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本国のこのビジュアルすごく好き。ジェーンの内なる炎、がよく現れていると思う。演出もここぞという時に火を使っていて良かったな。ロチェスター卿と距離が縮まるきっかけもあるし、ラストの火事といい火は作品のキーポイントなのかも。

ジェーン・エアは原作は昔読んで映画も何パターンか見ているものの、孤児だが賢い少女・ガヴァネス・屋敷の偏屈な主人との身分違いの恋…みたいな設定から連想する物語が多すぎて(いや、それらの原典がジェーン・エアなのだけど)ロチェスター邸に行く頃になってようやく「あ、そうだ奥さん出てくるやつだ」と思い出したくらい。なので、かなり新鮮な目で(?)で楽しみました。

ジェーン・エアは映像だと17世紀のクラシカルな装いやセットにうきうきしがちだけど、今回はかなり削ぎ落とした演出。ジェーン以外は舞台上のバンド+6人くらいかな?の役者がほぼ出ずっぱりで動物まで含めて演じ分けるこれぞNTな舞台。演技力だけでぐいぐい魅せる芝居は骨組だけ決まっていて稽古場で即興で組み立てていたらしい。面白いなー。

幕間の演出家インタビューで「ジェーンの核を作ったのは幼少期」といったことを話していて、なるほどゲーツウッドとローウッドスクールのパートがしっかり描かれているわけだなあと納得。ストーリーのメインは恋愛ものなのだろうけど、不遇な生まれ、虐待を受けていたこと、スクールでのヘレンとの出会い…を経ての今。当時の女性としてはとんでもなく珍しいであろうジェーンのある意味面倒くさい(褒めてる)ほどの自分の曲げなさ、と相反しない信心深さの根拠が伝わるものね。

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ローウッドスクールは服が吊り下げられている美術が好きだった。舞台全体を通して衣装が記号的な使われ方をしていて、赤ちゃん→幼少期→学校に入る→大人になる時にそれぞれ衣装チェンジがあって、コルセットを締めるなどわかりやすく成長と社会的役割の変化を見せている。ローウッドスクールは同じ服がたくさんある、というのが規律性とかをイメージさせられる。(院長が高い場所に立って子どもたちが俯きながら早歩きで移動する様子はもはや囚人のようだったけど。)また衣装が記号的なので高齢の女性や男性が幼い女学生を演じていることにも違和感がない。これを着ている人は同級生なんですね、と脳がすんなり受け入れる。こういうのかなり演劇的だな。

原作でぼんやりと「学校の冬がすごく寒い」というイメージを覚えていたんだけど、演出でもそーっと顔を洗ったり凍えてみんなで身を寄せ合う場面があって、そうそうこんな感じだったよね〜となった。

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馬車移動の演出と窓枠を使った演出が特に好き。移動シーンは何度か出てくるけどみんなで汽車ごっこ!て感じで楽しい。窓枠は布と風を使ったり、とにかくジェーンが自由を渇望する性格だというのが伝わる。算命学・車騎の女なので安定していても飛び立ちたくてそわそわしちゃうのわかるよ…。

あとやはりやられたなー!と思ったのはバーサ。1人だけ赤いドレスで印象的な劇中歌を担う女性がいて、ミュージカルでなく歌唱担当がいるんだな〜面白いな、と思っていたらいきなり実体を持った役柄として浮かびがってくるのがぞわぞわきた。最後まで台詞はなくバンドと役者の中間のような立ち位置で、「登場人物と会話はしないがずっとそこに存在はしている」という非常に私が好きな概念的なキャラクターで面白かった。

ジェーンが「現代の女性も共感しやすい」描き方をしているのもあって、かなりバーサに同情的だなとも感じた。狂人を監禁、当時では別に非人道的ということもなかったのだろうけど。ジェーンの選択は一貫していて、見ていても筋が通っている。それに比べてロチェスター卿よ。ジェーン・エアをどの作品で見ても必ず腹が立つんだよね〜〜。望まぬ結婚にうじうじするのまではまぁいいとして、アデルの件とか嘘で塗り固めた重婚しようとしてたのは完全に自己責任なのになぜ被害者ヅラができるんだ…。20も年下で賢くて才能豊かなジェーンを騙して結婚できると思っていたあたりが絶対舐めているし「選んであげた」感が見えてるのが腹立つ〜美人じゃない美人じゃないと連呼してるんじゃねえ〜。そして結婚式当日に「妻がいました」と告白してショック受けてるジェーンに甘えるとか論外でしょ〜!!被害者はジェーンだから!!そりゃ当時の社会通念では身分違いの恋愛結婚というだけで先進的なのだとは思いますけども、ええ…。あと舞台ではそこまで描かれなかったけど確かジェーンは遺産も相続してお金持ちになるよね。ロチェスター卿はいろいろ失う前からもっとちゃんとジェーンの有り難さを感じて欲しかったよ!?ジェーンは1人でも生きていける女なんだからね?!

あとあと、後半に三角関係っぽくなったよな〜とぼんやり記憶していた牧師さん。ヘレンやアデルと同じ女優さんが演じていらっしゃるのも高潔な感じがして良かったな。あとはロチェスターの飼い犬を男性が演じている様子が常にツボでした。

It's a GIRL.で始まりIt's a GIRL.で終わる、王道だけど最初に戻ってくる脚本が好物なのでこれもよかった。(ロチェスターが服を丸めて赤子にする流れいいな〜)ジェーン・エアはロマンスものだと認識していたけど、ひとりの女性の人生史なんだなと思いました。

当たり前なんだけど舞台上にいる方が全員おそろしく演技が達者で、美術と音楽と照明が洗練されていて、つくづくロンドンから遠く離れた東京でこの観劇体験をたった3000円でさせて頂けるのは奇跡ですよ。ありがとうナショナルシアターライブ。毎回これ言ってるな。

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