日常と支え合う人の尊さ 劇場版 きのう何食べた?

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なに食べ劇場版を見てきたので感想。

長編用のオリジナルストーリーではなく原作準拠、どの部分を引き伸ばすのだろうと思っていたら数ヶ月にわたる話を2時間にまとめる形で、想像以上に脚本の構成が良かった。

シロさんがケンジにプレゼントした京都旅行から始まって「家族の関係」がひとつの軸となり、ケンジの疎遠な父の死、佳代子さんのお孫さん誕生まで描きつつ、ケンジはタブチくんの登場、シロさんはホームレスの弁護を通じて考えた弁護士としての在り方…とお仕事ネタで山場もあり。原作は単話完結で読んでいるので、長いスパンで見るとこういう流れだったのかーと改めて物語を捉え直したりした。

冒頭、京都旅行が幸せすぎて「シロさん死ぬの!?」とパニックになるケンジ↔︎いつもと様子の違うケンジの病院通いを知り「お前がいなくなるんじゃないか不安だったよ」と吐露するシロさん、という原作にはない対称な演出も映画ならでは。つーか西島シロさんすごい素直でかわいいよね、ツンデレがツンデレになってない。常にケンジをかわいいかわいいと思ってるのが溢れちゃってるもの…。

なに食べ世界は実社会と同じスピードで時間が過ぎていくので、「ゲイであることの受け入れられ方」は原作の中でもかなり変容している。今1巻を読み返すと「おおう、こんな感じだったけ…」とちょっと引く。(社会が進歩している証拠なので嬉しいことではあるんだけど)だから時間軸的にはわりと過去のストーリーを2021年に映画にするにあたって違和感がないかなー、と心配にもなったんだけど、そのあたりがさすが綺麗にまとまっていて。ゲイカップル同士の楽しい交流、同世代でわりと閉じた人間関係の話の中に、"普通の"ヘテロ家族である佳代子さんのエピソードにジルベール(映画では語られていないが親に勘当されている)を登場させて「孫ができることの何がおめでたいのか全くわからない、家族なんて関係ないじゃん」と言わせるのも上手い。二人ともいい大人で、子どもを成すわけではない、普通のお嫁さんのように親にも受け入れられていない…それでも尊重したいのは、パートナーのことが大事だから。大事な人の大事なものを大事にするのが愛だから。自分たちだけで生きているわけじゃない、というケンジにシロさんがかける映画オリジナルの台詞がすごく良くて涙ぐんでしまった。

ありきたりな2人の日常は当たり前のものではなくて、家族や仕事や健康、そして何よりお互いへの思いやりがあるから成り立っているのだよなあ。親なんて関係ない!お互いがいればそれでいい!というような年齢ではないというのもあるけど、自分のパートナーを否定した親を怒りつつ気持ちは尊重する(そして老後の面倒は見る…)シロさん、家族を捨てた父親の納骨までちゃんとするケンジ一家…これが大人だな。しみじみと、いいカップルだなあ、理想の家族だなあと思うのだった。2人とも全然喧嘩にならないよね、嫉妬っぽい感情が芽生えても心配が上回っちゃうしさ。

世の中の4、50代夫婦の何割があんな良い関係を築けているのかね。子持ちの友人と一緒に見たのだけど、観賞後は「己を反省した…」「家族って勝手に上手くいくものじゃないよね、シロさんもケンジもすごく努力してるよ偉いよ…」と語り合ってしまったわ。

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他、良かったな〜〜ポイント。

・ドラマと同様にスマホ自撮り風オープニングが京都旅行ダイジェスト。ラブラブすぎる。あと大掃除でいちゃいちゃする2人が可愛すぎる。マスクをしていて良かった!にやにやし過ぎた。

・タブチくんはSixTONESの松村さん。ジャニーズどうかなあ、と思っていたけど台詞回しのペラッペラに軽い感じが合っていた。

・山本耕史の小日向さんが相変わらず最高。原作のイメージとは違うけど、あの無駄にムーディな喋り方がツボにはまる。ずっとジルベールとバカップルしていてくれ。特別協力<ワサビーフ>にめちゃくちゃ笑った。

・スピッツの主題歌「大好物」(タイトルが天才でしょ)良かったし、大好きなドラマ版のOPも使用されていて嬉しい。

・ケンジの実家のディティールが良い。お母さんと2人のお姉さんの喋り方とかもイメージそのままだった!

・料理シーンも満載で当たり前にお腹が空きます。お腹が鳴ったけど周りも鳴りまくっていたので恥ずかしくなかった。アクアパッツァ、ローストビーフ、りんごのコンポート、肉団子、ぶり大根など食べたくなりました。あと家で正月を過ごすのもいいかなあという気持ちになる。

・内野さんは本当に演技が上手い。どの瞬間もわざとらしすぎないケンジですごい。西島さんの淡白(つーか何を演じても西島さん)な演技も内野ケンジと並べることで濃淡のバランスが良く見える。記念日ディナーのグラサン似合いすぎててすごい。

・ところどころ、ラブシーンくるか!?劇場版だしいっちゃうのか!?と思わされる間があり、焦らされる。同人誌版を読んでいる人はニヤリとするかと。しかしわかりやすいラブシーンがないからみんな安心して見られるのかも…。ゲイだからとかいうより、深夜ほのぼの枠の雰囲気に本格的な濡れ場は欲しくないという心理。

ドラマ版はビジュアルなどの再現率がすごい!というわけではないけど、原作を深く読み解いて再構築する丁寧な仕事ぶりが素晴らしかったと思っているので、続きが見られたことが嬉しかったです。ドラマ撮影を経て出演者たちの仲が深まっていることで、ファミリー感のある空気も良かった。ケンジとシロさんは長年連れ添っている2人にしてはこちらが照れるくらい目から愛情が迸ってましたが…。原作も実写版もサザエさんのように半永久的に続いてほしいものだ。

余談ですが友人との予定の都合で意図せず初日の初回で見たら大きなスクリーンが満席で、しかも男性がかなり多くてびっくりした。それも若いカップルとかではなく自分の親世代くらいのご夫婦が多く(白髪まじりの頭がたくさん見えた)これは原作の男性誌を読まれているのかな、深夜ドラマがお好きだったのかな、奥さんに誘われて来たのかな…いずれにせよこの作品を高齢の男性が楽しんでいる、ということがかなり嬉しいなあと思いました。