テーマ不在のゴシップ伝記 ダイアナ・ザ・ミュージカル

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 Netflixで配信された「ダイアナ・ザ・ミュージカル」を見たので感想。2020年3月にブロードウェイでプレビュー公演が行われていたが、コロナの影響で中止→ネトフリで配信に。開幕前に配信したBWミュージカルは初めてらしい。結局2021年11月に開幕したけど1ヶ月くらいで早々にクローズしてしまったみたい。コロナで気の毒に…と思いつつ、正直「そりゃそうだろうな…というかよく上演までこぎつけたな!?」と思う作品でした。

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言わずと知れたイギリス王室のダイアナ元妃を題材にしたミュージカルで、19歳のダイアナがチャールズに見初められたところから結婚〜カミラとの三角関係、自身の不倫〜離婚〜死亡までを描いている作品なんだけど…。とにかく脚本が薄い。テーマがない。

こういうことがありましたよ、こんな服を着ていましたよ、とただ出来事(ほぼゴシップ)だけを連ねていて、子ども向けの伝記マンガを読んでいるみたい。それぞれの役も「みんなが想像するイギリス王室の人々」のキャラクターそのままで、特に新しい発見はない。同じネトフリで配信しているオリジナルドラマ「ザ・クラウン」でまさに同じ世代の王室メンバーが描かれているけど、役の解釈の深さに天と地ほどの差があってびびる。作品としてもだし、まだ存命の実在の人物たちを描くにあたって無神経すぎるのではないか…。(逆にカミラ夫人がチャールズの良き理解者で徹底的に耐える女、チャールズもカミラに対してはとにかく一途な男として描かれているのは存命の2人への配慮か?とも感じるが)とにかく2020年にこれをわざわざ舞台化する意図が全く見えなくてびっくりしてしまった。

曲はメロディは良いけど歌詞に芯がなくて心に残らない。テーマ紹介ばかりでサラッとしている印象。心情を歌う曲も「私はこう思っています」という曲が多くて、歌いながら気持ちが変わる、成長する、という曲がないのが薄く見える理由のひとつかも。役者陣がさすがに歌が上手いので勿体無いなあ。そしてアンサンブルはいろんな役を演じ分けていて上手いのだけど、ぎゃんぎゃん叫ぶ曲が多くて疲れてしまったな。

とにかく脚本に軸がなくテーマがわからないのが痛かった。「若く何も知らないと見くびられている女が自らの美貌やファッションセンスを武器に国民を味方にし、慈善事業などで影響力を増していく」という話なのかと思いきや、ダイアナが気にしているのはずっとチャールズとカミラとの三角関係のことだし、「運命の恋を夢見てた少女が真実の愛に目覚める/それでも愛を信じて生きた」的な話かと思えばそうでもない。あとチャールズは会話しなさすぎて腹立つし、それを愛してると言い続けるダイアナも謎だし。夢見がちな少女、王室に馴染めなかった女の幼さや我儘さを描きたいのかと思いきやそこまでの皮肉もない。(そう、ロンドンやウィーンのミュージカルのような意地悪さが足りない。ただ下品なだけなのだ!)ダイアナの人生をもっと深く分析したらテーマに据えて深掘りできそうことはいろいろあるのに、彼女の表面的な部分しか捉えていないように感じる。なのに最後にとってつけたように「思いがけない人が世界を変えていく」とかそれっぽいこと歌われてて違和感…まとめ方が投げやりすぎでは!?

以前「エリザベートをBWで作っていたら全然違う話になっていただろうな」と言っていたのだけど、まさにエリザベートの人生のハイライトを切って繋げて明るく料理したらこんな作品になってたのかも…と思ったな。ウィーンミュージカルで良かった。うーん、なんかダイアナも彼女を意地悪く観察する狂言回しとかがいた方が作品としてまとまりが良かったのかも…?

勢いよく酷評してしまった。良かった部分は、主演のダイアナがほぼ歌いっぱなし、着替えまくりなのがすごい。衣装が華やかで実際にダイアナが着用していた写真が目に浮かぶものが多い。結婚式でウエディングドレスに同化する演出はサプライズだった。1幕終わりのファッションショーみたいな演出も楽しい。コロナ禍での制作背景が見えるエンディングも面白かった。舞台配信をネトフリでアーカイブしてくれる試みはとっても嬉しいのでどんどん上映権買ってほしいよ〜!

あと改めて「オーディエンス」とか「ザ・クラウン」が面白い作品だなあと思ったし、どう考えても一番興味深い生き方をしているのはダイアナではなくエリザベス女王だな、とも思ったね…。あとどんな作品で誰目線で描かれてもチャールズは器が小さすぎる男なので、きっと実際そうなのでしょう…。ていうか最初からカミラを離婚させて結婚できたら良かったんだよねえ、まるでダイアナが世間知らずなのが問題みたいに描かれているけど、普通に倫理的にアウトだよ。

そして当人たちがまだ生きているのにこうやってエンタメにするのなら、それなりに作品のメッセージは必要だと思うのだよな。18-9世紀の歴史物で重厚さを吹き飛ばすためにあえて茶化している、露悪的にしているならわかるんだけど、現代物でこの演出はただただ下品で、故人や当事者へのリスペクトが無いなあと感じてしまうのだった。これがイギリスで作られた作品だったら、彼女への批判の眼差しはもっと厳しく、そしてもっと愛情をもって描いてくれたのでは無いか、と思うな。ただおそらくもう舞台では観られない作品なので映像配信してくれたのは嬉しいです。ネトフリさん、もっと舞台配信権利買ってー!!(2回目)

 

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