誰のための物語? Netflixザ・プロム

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Netflix制作のミュージカル映画、ザ・プロムを見たので感想。通しで2回見て、3回目を流しながら書いている。気になったところをすぐに見返せるのが配信映画の良いところですね。

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gleeのライアン・マーフィーが監督するということで楽しみにしていたのだけど、良くも悪くもライアン・マーフィーらしい、正直「gleeっぽすぎる」映画だなあという感想だった。彼のオリジナルではなくブロードウェイで上演した元作品があるのでどれくらいが映画用アレンジなのかで捉え方も変わるとは思うけど。

舞台はインディアナ州の田舎町。女子高生エマは同性の恋人とプロムに行きたいと訴えるが、反対するPTAはプロム自体の中止を決める。落ち目のブロードウェイスターたちはネットニュースでそれを知り、プロムを開催すべしと町に乗り込んでくる。最初は売名のために動いていたナルシストなスターたちがエマと交流するうちに変化が起きて…というストーリー。

ミュージカル好きの心をくすぐられる名場面たち

ミュージカルシーンが良くできていると脚本の粗は許されてしまうミュージカル映画あるある。(個人的にはそういう方針はあまり好きではないのだが)本作もとにかく歌唱ダンスシーンが良い。特に若者の群舞を撮らせたらライアン・マーフィーの右に出る人はいないのでは。華やかなプロムシーンはもちろん、ショッピングモールで派手なダンスが見られるLove Thy Neighbor、校長室で歌うディーディーとブロードウェイの舞台上が交錯するThe Lady's Improvingなどgleeファンお馴染みのミュージカル演出が随所に見られて楽しい。(意地悪な言い方をすると、全ての演出がgleeで見たことがある手法でもある。)曲はどれも良いものの明るいアップテンポな曲の比率がやや多くないかな、と思ったけどこれは私の好みの問題ですね。

PTAの集会にメリル・ストリープ演じるディーディーが乱入してくるIt's Not About Meはアルゼンチンタンゴ風の曲調でエヴァ・ペロンの話を出しナルシスト全開、「エビータ」のパロディ。ニコール・キッドマン演じるアンジーが歌うZazzはロキシー役を狙っているという彼女の役柄そのまま「シカゴ」のAll that Jazz。Tonight Belongs to youではエマのファッションアドバイスをするバリーが「君はエルフィー、僕はガリンダ」と「ウィキッド」のPopularを持ち出す。(ここの字幕、絶対にガリンダじゃなくてグリンダにした方が日本人に伝わると思うのだが)他にもグリースやハイスクールミュージカルを彷彿とさせる場面があったり、リプライズの入れ方だったり、ミュージカル好きの心がくすぐられた。

誰に向けた物語なのか

正直、肝心のストーリーは片手落ちだな…という印象。わかりやすい展開で後味よくまとまってはいるのだけど、大人向けの映画にしては世界が綺麗すぎるというか。それこそgleeの視聴者層くらいの、現在プロムに行きたいマイノリティの学生をエンカレッジする映画という立ち位置なら納得なのだけど、その割にはブロードウェイスター4人組(といってもメインのディーディーとバリーとそれ以外の2人、という印象だったけれど)の存在感が強すぎて肝心の女子高生エマの物語は薄い。実際、主演はメリル・ストリープという扱いだしなあ。大人たちの企画したテレビ出演ではなく自力でyoutubeを使って世間に訴える、という展開はよかったけど、PTA相手に訴えを起こせるほどのエマなら彼らがいなくても頑張れてた(もしくはインディアナに見切りをつけていた)んじゃないかな…と感じた。むしろ高校生たちとの触れ合いで人間的に成長したのは大人たちの方で、特にプロムに対して強いトラウマのあるバリーは数十年越しにプロムに参加する夢まで叶えている。キャラクターも圧倒的に大人たちの方が濃くて面白い。ということで、この映画/舞台のターゲットはどの年齢層なのだろう…というのがちょっと謎だった。大人向けなのであればもっともっと毒があっても良いのではと思うし。いけすかないナルシストとしての言動とかめちゃくちゃ面白かったので(田舎のホテルにわざわざトニー賞のトロフィーを持ってきて部屋をアップグレードしろと迫るメリル・ストリープ、最高)敵役に設定されている学生やPTA会長があっさり善人になるのはちょっと肩透かしを食らった気分。(あと意地悪するチアリーダーがブロンドとヒスパニックの二人組なのとか、PTA会長はエマの恋人アリッサの母親で完璧主義者とか、ちょっとステレオタイプすぎないか)なんかスクールミュージカルのノリで大人向けドラマをやっているところにちぐはぐさを感じてしまったのかもしれない。またバリーの同性愛を否定した母親との再会やアリッサ母娘の和解は映画版オリジナルらしいと聞いて、それらがない舞台版はかなりニュアンスが変わりそうなのでどんな作品なのか気になる。

ただ校長先生が長年ファンであるディーディーに芝居を見る幸せを語るWe look to youはとてもリアルで、非現実の舞台から現実を生きる元気を貰っている私には非常に共感できるシーンだった。

ていうかプロムってそんなに大事ですか

ザ・プロムのあらすじを読んだとき、絶対に10-20年前の舞台設定なのだと思っていたら普通にスマホでTwitterとかしている現代の話だったのでそこにびっくりしすぎて開始10分くらい戸惑ったよね。いくらインディアナ州がど田舎で価値観が古い設定だといっても「同性カップルを出席させたくないからプロムの開催自体をPTA権限で中止する」って設定が2020年に成り立つことがおかしくないですか???いや、あり得る話だから舞台になり映画化され受け入れられているのはわかるのだけど。なんかその前提に「アメリカでもその程度の社会なんだ…」とガックリきてしまった。(そしてそんな差別が根強い土地の割にみんなあっさり偏見を捨てるんだよな…)他のドラマや映画ではパートナーのいない子は友達を誘ってプロムに参加していたりするので、ルールは学校によるのかな、とは思うけど…そもそも性別関わらずパーティーにはつがいで参加すべしというアメリカのパートナー文化自体がどうなのよ、と思ってしまう。プロムじゃなくて全員参加のダンスパーティーじゃダメなのかな…ダメなんだろうね…。自分はプロム文化のない国で高校卒業してよかった〜〜〜と何百回目かわからない気持ちになったのであった。

 

ミュージカルシーンは好きだった映画感想

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