目を背けたくなる過酷さ…だが見て良かった「カラー・パープル」

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映画「カラー・パープル」を見たので感想。最近滅多に映画館に行かなくなってきたけど、ミュージカル映画だけは良い音響で見たい&売上に貢献したい気持ちでできるだけ初週に行っております…。

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カラー・パープルはトニー賞授賞式でタイトルを知っていた程度で、スピルバーグ版の映画は未見、原作小説も未読。生き別れになった黒人の姉妹の話…とだけ把握していたのでポスターを見て3人姉妹なのかなーと思っていたくらい(ここは姉妹じゃなかった)。なので冒頭からあまりにもあまりな境遇に衝撃を受けて、長く苦しい前半パートは全ての展開に新鮮に驚き怒り悲しんでしまった。こ、心が疲れた…。

以下ネタバレあります。

優しい母を亡くし横暴な父の言いなりとなったセリーは、父の決めた相手と結婚し、自由のない生活を送っていた。さらに、唯一の心の支えだった最愛の妹ネティとも生き別れてしまう。

公式のあらすじがこれ↑なのだが、「嘘はついていないが、そんな言葉に要約していいのか!?」と思うくらい実態がひどい。

冒頭、仲の良い姉妹は父親に怒鳴られ店でこき使われながら優しかった母の思い出に浸っている。よく見ると姉のセリーは妊娠しており、それを街の人々も「名前は決めたの?」と聞いたりして受け入れている様子。夫の姿は見えないし、10代前半で父親のわからない子を妊娠しているからこんなに父親からの扱いがひどいのか…?と思いきや、お腹の子の父は彼女の父親であること、しかも過去にも1人産んでいることが匂わされる。いやいやいやいや父親、モラハラどころじゃない。最低最悪の犯罪者だ。妹や周りはどこまで把握してるんだ?毎週教会に通っているっぽいがそのあたりどうなってるんだ?

妹ネティと生き別れになった理由も、セリーが端金で売られて結婚し、代わりに父親から性的虐待を受けそうになったネティが姉の婚家を頼りに逃げてくるが、セリーの夫にレイプされそうになり抵抗したところ銃で発砲されて命からがら逃げて行方不明になってしまう(その後送られてきた手紙も全て夫が握りつぶしていたため生死不明)という経緯である。

なんかもうこの時点で辛すぎて、貧しさや不運というより明確に2人の加害者がいるじゃん、こいつらが死ねよの気持ちが強くなりすぎてしまって、後半の解放と受容のターンに入っても「私が代わりに復讐したい!」と思ってしまった。「赦す」ことがなによりも尊くて、それができる人間こそ幸せな最期(や死後の安寧)を得ることができる…というのは不遇の主人公の物語でよく見るし、これが神の教えなんだよなと頭では理解するのだけど感覚的に「やっぱわからん」となってしまうのでした。魂のステージが違いすぎる。

そんなひたすら目を覆うような暴力と絶望から始まる映画で、とても良かったのがネティのキャラクター造形だった。ネティはよくいる「不幸な境遇でも前向きな気持ちを忘れずひたすら努力する」ポジティブな主人公ではなくて、「理不尽な扱いを受けることに慣れすぎていると、暴力に抵抗するどころか、逃げようと思うことすらできない」ということが伝わってくる、あまりにもリアルな、絶望しきった女性なのだった。見ているこちらが「こいつら殺してやりたい」と思えるのは、自分が尊重されるべき存在だと感じたことがあるからなのだ、そんな瞬間などなかった黒人女性がたくさんいるのだ…と気付く。

そして彼女が徐々に怒りの感情を、自尊心を取り戻していくきっかけが、ソフィアとシュグという2人の女性との出会い、特に歌手シュグとのクィアロマンスであるということも非常に良い。(これ、原作小説の書かれた時代を考えるとなかなか挑戦的だったのでは?と想像するのですが…)ソフィアは生さぬ仲である息子の嫁、シュグは暴力夫の元恋人で浮気相手という、「女の敵は女」文脈になりそうな関係性なのだけど、セリーがエンパワメントされていくのがとても自然なのだ。セリーが反撃に出る瞬間(家族での食卓)にこの2人が立ち会っているのがとても良くて。唯一、シュグとのロマンスはキスシーンになって初めて「えっそういうラブだったの!?」とちょっと唐突さを感じたので、もっと性的にも惹かれているフラグがあれば良いのにと思ったり…でもシュグの結婚への感情とか一緒についてきた女性の設定とか、映画では端折ってたけどきっと原作では細かくいろいろと描かれているんだろうな〜と感じた。

セリーが"I'm Here"で「私は美しい」と歌う時のカタルシスがたまらなく涙が出た。彼女が抱えてきたものはコンプレックスなんて言葉では足りなくて、本当に人間以下のような扱いを受けてきたのに、この状態まで自分を認められるようになった。自分の意思で暴力から逃げて、手に職を得て経済的に自立できたこと…の凄さ。とにかく本人が偉いよ!!と思うが、ここで神に感謝して周りを赦せる人間だからなんですよね、はい。(やはり微妙に納得いかない)(だって父親はきっと何も反省せずに死んだし、夫も順当な報いを受けてないよ)

ただ、男尊女卑の世界でガンガン自己主張できるイレギュラーな存在だったソフィアが白人の女性の機嫌を損ねたことで6年も収容所に入り人格が変わってしまったくだり(それ以外でほとんど白人が登場しなかったのも、上手い演出だな…と感じた)や度重なる災害で畑が豊かな土地ではないことなど、あの時代の黒人社会全体が抑圧されていることは描写されていて、弱い者はより弱い者に加害してしまうのだな…というのは理解した。それでもセリーの父親や夫のような男はあの時代においても異常者であったと思いたいが。

ミュージカルシーンは明るい気持ちで見られるところはとても少ないのだけど、ブラック・ミュージカルのパワフルさ、ダイナミックなダンスが多くてよかった。リプライズの使い方はそんなに好みでなかったので、舞台で観てそこまで好みかはわからないな〜という感じ。舞台から続投らしい、主要な女優たちがとにかく良かったです。特にソフィア役のダニエル・ブルックスは素晴らしかった。あとスピルバーグ版の主演であるウーピー・ゴールドバーグがかなり冒頭で出てきた時は笑ってしまった。目立つなあ。ちなみにBWのシャグ役はジェニファー・ハドソンだったらしくとっても納得!映像と年齢設定違いそうでそれも気になる。

妹ネティが宣教師と共にアフリカに渡っている間の話だったり、最後の再会時に増えている登場人物だったり、「原作にはいろいろ書いてあるのだろう」と想像できて(文学原作あるある)また私がいかに黒人の歴史について無知であるかひしひしと感じたので、いつかちゃんと読みたいなと思った。しかし前半の苦境は文字で読む方がえぐられそうなので、心が耐えられそうになったら…。

エンドロールが民族文化であるキルトの柄であらすじを辿る映像になっていて、それもとても良かったな。ミュージカル映画としてというより、知るべきものに少しでも触れられて良かった、という感じの鑑賞でした。

 

ミュージカル映画感想

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